私よりはるかに可愛い乙女では……?
王家の避暑地は、王都の北。
メルキール山の麓、モラ湖のほとりだ。離宮が建っているらしい。
いわゆる高原リゾートってやつかしらん。ああ、セレブって感じがするわ~。
うちの領の夏は暑いため、涼しい高地へ行けるのは非常に楽しみだ。姉さま達には散々、ずるい!を連呼された。ふふふ。
避暑地へは、アルや王妃さまと一緒に馬車で出掛けるのかと思ったけど……うちの屋敷から見知らぬ館に行き、一度、馬車を乗り換えた。そして、また違う館に行く。
……こ、これはもしや尾行者の目をくらませるためかな?なんだかスパイ映画みたい!
そして着いた館では、小さな部屋に通された。近衛騎士がいる。
床には小さな転移陣。
知らなかった。こんな小さいサイズもあるんだ。
転移はお母さま、私の順だ。
転移先はまた小さな部屋で、そこを出て廊下をしばらく歩くと……アルと王妃さまが待つ部屋に辿り着いた。
「イライザ!」
「コーディ!」
部屋に入った瞬間、お母さまと王妃さまは駆け寄り、互いの両手をあわせて「キャ~!」と少女のように喜びあう。
「ああ、イライザ。また、あなたと一晩中話せるなんて、楽しみだわ!」
「わたくし、もうこの3日くらい、興奮がおさまりませんの」
「まあ!だからって眠くなっても寝かせませんわよ?!」
…………うわー、私が現役高校生だった時分でも、こんなにキャワキャワしていた記憶がないよ。お母さまも王妃さまも、可愛いな……負けた気がする……。
私が二人のテンションの高さに圧倒されていたら、アルが苦笑しながら挨拶してくれた。
「アリッサが来てくれて、助かった。僕一人だと、ぼんやりずーーーっと湖を眺めている羽目になったかも知れない」
それはそれで、おもしろ……いやいや、大変だよね。うん。
さて、王家の避暑地に着いたのかと思っていたけど、そうではなく、ここは王宮の一画らしい。ここからアル達と一緒に目的地へ転移するそうだ。
そうか、結局、馬車の旅は無しか……。残念。
でも、セレブってそういうものよね。前世だってセレブはプライベートジェットで一っ飛びだもん。庶民みたいなちまちました移動はしないよね……。
なお、お母さまがこっそり「さっきの転移も、この後の転移も、本来は王族以外は使用できないのよ」と教えてくれた。
……はっ、もしやさっきの小さな転移陣って、王族の非常脱出用じゃない?いいのか、こんな私的な使い方をして!?
しかも転移には魔法石が使われる。
商会をやっていて何だけど、私、魔法石の値段を知らない。そして転移陣にどれだけの魔法石が必要なのかも。
ヤダ~、民の血税を無駄に使ったとかで裁かれそう~。
……ううう、商会で稼いで、税金いっぱい納めたら、見逃してもらえるかしら。
転移した先は、モラ湖近くの建物だった。
モラ湖は、恐ろしく透明度が高い。魚の銀色に光るウロコがきらきら見える。
周囲の景色も素晴らしかった。
転移用の建物と離宮以外に人工の建築物は見えず、一面、緑が広がっている。
メルキール山の鋭い頂も、いい形だなあと思う。夜、月がかかっていると絶対、絵に描いてしまうんじゃないかな。
そうそう、お父さまが言っていたのだけど、モラ湖付近は禁足地になっているらしい。
つまり、王族以外は入ってはいけない地、ということだ。周囲には結界が張ってあり、侵入者はすぐ捕らえられる。
そんな訳で、転移する前に手には許可印を捺された。捺してすぐ消えたけど、これを捺しておかないと、転移した瞬間、全身ビリビリの刑になるらしい。
瀟洒な離宮の中に入ると、王宮スタッフに混じってお母さまの侍女リンジーと、メアリーの姿も見えた。
いつの間に?と驚いたけど、二人は転移陣を使える立場にないので、3日かけて馬で来たとか。
そ、そうなんだ?申し訳ないわ……。私、てっきりメアリーは夏休みかと思ってたのよ……。
読み直しがほとんど出来なかったので、ちょっと不安~……。
ブクマはビックリ、500件超……本当にありがとうございます。更新、がんばります。




