アルと静かなお茶会
静かな温室でときどき万年筆の走る音だけが響く。
長靴を履いた猫の続編は、面倒なので前にも使った桃太郎をアレンジすることにした。
つまり、猫を桃太郎のポジションに置き、キビ団子ならぬクッキーを持って旅に出させるのだ。途中でリスとフクロウと……うん、クマを仲間にしよう。魔物と戦うなら、一匹くらい強そうな仲間がいる方がいいだろう。ただし、気の弱い子グマという設定にしておく。一行の中で一番怖がりだったが、仲間の危機で本来の力を発揮するのだ。
(まあ、それなりに面白そうな展開になったかな?)
あらすじを読み返して、ひとりごちた。
そのとき、温室の扉が開く。
中に入ってきたのは、メアリーと……
「アル!」
「兄君から、アリッサがこちらにいると教えてもらったんだ」
アルフレッド王子は、にこっと笑った。
その手には、サンドイッチやケーキなどが乗ったお盆がある。
「兄さま、アルに運ばせたんですか?!」
私は慌てて王子に駆け寄った。王族に給仕をさせるなんて!
だが、アルは嬉しそうだ。
「僕が運ぶと言ったんだよ。このケーキが好きだって聞いたけど、間違いない?」
「あ、はい、そのサンドイッチも好きな具材です」
「良かった。僕もお腹がぺこぺこなんだ。一緒に食べようか!」
……なんだろう。アルのテンションが妙に高い気がする。
えーと……エリオットとの婚約話(事実無根だけどね)を聞いて───いや、それでアルがハイテンションになる理由が分からない。水龍公爵家のお泊まりに、自分も誘ってくれなかった……と怒ってるワケでもなさそうだし。
答えを考え込んでいたら、メアリーがさっさとお茶会準備を整える。
「では、近くに控えておりますので、ご用があればお呼びくださいね」
すっと礼をし、こちらの視界に入らないところへ下がる。
……そういえばいつの間にか、メアリーも一人前の侍女になっているなあ。最近、失敗することが全然ないんじゃないかしら。私のそばに付いていることも多く、意を汲み取ってさっと動いてくれるのですごく助かっている。
メアリーを見送ってそんなことを考えていたら、アルが口を開いた。
「アリッサは、あの侍女の弟たちと仲がいいって聞いたけど。本当?」
「え?リックとテッドですか?そうですね、下町の友達です」
「下町に行っているんだ?」
「あ!」
しまった。
リック達と会うために下町へ行ってることは、お父さまには隠しているんだった。神殿のバザーなど、カールトン家の名を使う分は事前に許可をもらう関係もあるから言ったけど、普段、下町で遊んだり屋台での食べ歩きなんかは、お父さまは反対すると思って秘密にしている。
私の罰の悪そうな顔を見たからだろう。
アルはふふっと小さく笑って口を塞ぐ真似をした。
「分かった。秘密にしているんだね?」
「えと……はい」
「じゃあ、僕は聞かなかったことにしよう。でも、そのうち一度、カールトン領へは行ってみたいと思っているんだ。そのとき、君の下町の友達にも会ってみたいな」
おおお!
アルが積極的に友達を作ろうとしてる!
これは協力しないと。リックやテッドなら、アルといい友達になれる……かなあ?うーん?テッドは口が悪いから、王子に私と同じ対応をしないよう先に注意しておかないと。
ここからアルと二人の話が続きます。もうちょっと短くまとめても良かったんですが、これまでやや消極的だったアルが変わるタイミングなので、削れませんでした……。(ただ、糖度はないんですけど)
※ メアリーは、お茶のポットやカップを運んでいます。王子にだけ持たして手ぶらだった訳ではありません~。




