そしてセオドア兄さまに攫われる
小さな嵐が去って、テラスでアナベル姉さまと二人になった。
ほっ。
アナベル姉さまは私の頭を撫でる。
「大丈夫?アリッサ」
「だいじょうぶです。あの……姉さま……」
心配げに覗き込む姉さまに、私はおずおずと尋ねた。
これは、ちゃんと確認しておくべき案件だ。
「わたし、アルフレッド王子と婚約する約束なんですか?」
「んん~、そういうお話がない訳じゃないけど、アリッサが望まないなら止めようってことになっているのよ」
「そうなんですか?」
ふう。良かった。
「最初っから、あまり王子のこと好きじゃなさそうだったものね。アリッサは、エリオットさまみたいなタイプが好みだったんだ?」
「はえっ?!」
安心しかけたのに、顎が外れそうなほど驚いた。
咄嗟に言葉が出ず、あわあわと口を開け閉めする。
「まあ、今日、水龍公爵閣下を見て納得したわ。お美しいものね、ルパート閣下……」
「ちが……」
「前にゲームを一緒にしたとき、エリオットさまって気取っておられないし、頭も良かったし、アリッサが好きになるのも分かるな~って納得」
「姉さま……ち、ちがいます……」
「あら、照れなくていいのよ?お祖父さまも、公爵家同士の婚姻はここ100年ないことだけど、アリッサが望むなら!ってお父さまを説得してるみたいだし」
イヤァ~~~ッ!!!
どうしてそんな話になってるのぉぉぉ?!
ショックで燃え尽きていたら、セオドア兄さまがやって来た。
「ああ、ここにいたか、アリッサ」
「セオドア兄さま……」
よろよろとしている私を、兄さまがさっと抱き上げる。
「会場がちょっと大騒ぎだよ。アリッサはいない方がいい。抜け出すよ」
「へ?」
軽い調子で言うものだから、次の行動には息を飲んだ。
ひょいっと欄干を乗り越え、兄さまは外へ飛び出したのだ。
「きゃああああ!!」
テラスは2階。とはいえ、うちは豪邸なので各階の天井は高く、普通の家の3階くらいの高さは優にある。
落ちる、死ぬ!
そう思った瞬間、ふわっと周囲に風が吹いた。
速度が落ち、トンと僅かな衝撃がくる。
そして兄さまの笑みを含んだ声が耳元で聞こえた。
「ビックリさせたな。ごめんな」
「今の……」
「風の魔法だ。───アナベル!アリッサは温室へ連れて行くよ!」
「了解~!」
驚きの連続で心が麻痺しかけている私をもう一度優しく抱え直して、セオドア兄さまは真っ直ぐに温室の方へと駆け出した。
わりと遅筆なので同時連載は大変なのですが、書きたい話を思い付いてしまいまして、新しい小説の連載を始めました。といっても全8話予定の短い話です。
アリッサとは全くタイプの違う可愛い女の子が主人公です。が、アリッサ以上に周囲を混乱に陥れます。
気楽~に笑って読める話だと思いますので、よければそちらも読んでみてください。
『ピュアな少女、悪女に転生する』




