この世界の味つけ事情
文字数が多めです。その分、次回が文字数少なめになります…。
朝食もテラスでとるようだ。水龍公爵邸は王城に近く、街を見下ろす高台にある。そのテラスともなれば、景色は素晴らしいに決まっている。
昨夜の夜景も良かったけど、朝の王都の景色も楽しみだ。
ちなみに我が炎龍公爵邸は、街の中央、繁華街に近いエリアの方である。高位の貴族ほど王城に近い場所に居を構えるものだが、うちは王都の屋敷にあまり重きを置いていない気がする。商会に近い方が便利だよね~とあの場所を選んだのではないかと思うくらい。もっとも建てたのは、私が生まれるより遥かに昔の話だけども。
四大公爵家で貴族街ではなく街中に屋敷があるのはうちくらいだから、ご先祖さまもきっと変わり者だったに違いない。
───テラスへ向かいながら、ふと、昨夜気になっていたことをディに聞いた。
「そういえば、ルパート閣下は食が細いのですね」
肉も野菜もほとんど食べてなかった。スープとデザートを軽く食べただけじゃないかな?細身で格好良いけど、少し心配になる量だ。
ディはふう……と溜め息をついて、頬に手を当てた。
「お父様は偏食がひどいんですの」
「生野菜は嫌いだし、肉や魚も苦手らしいからな」
「え?じゃあ、何が食べられるんです?」
「甘いもの……?」
「いや、それだけじゃ、栄養不足になるでしょう」
エリオットが苦笑した。
「だから、母上がときどき無理矢理食べさせている。食べるまで席を立っては駄目だと、縄で縛りつけて」
天下の水龍公爵がどんな羞恥プレイ?!
そしてあんな儚くて大人しそうな奥さまも案外過激でビックリだわ。
水龍公爵家って近付かずに遠くから幻で愛でておく方が良かったのかしら?
それはともかく。
歩く美術品、ルパート閣下にはこれからも目の保養をさせてもらうために、健康で長生きしてもらいたい。
「───もし良かったら、わたしの魔法の粉、試してみます?」
魔法の粉とは、アリッサ特製調味料のことだ。
カールトン家は、多彩な香辛料を商会で扱っているからだろう。通常の食事でもそれらがふんだんに使われ、不味いと感じたことはない。
だが、他家で開催するお茶会に参加するようになって、お菓子以外に軽食などを食べると、あまり美味しくない場合があることを知った。味付けが塩くらいなのだ。
最初は一口食べるだけでいいやと思ったけれど……特産の野菜だ、肉だと目を輝かせて何度も勧められると、食べざるを得なくなる。
この苦行が耐え切れなくなって、魔法の粉開発に踏み切った。
材料は、ティーヌ地方の岩塩や各種スパイス、ガーリック、トリュフに似た乾燥キノコなどなど。そうそう、魚も加えている。カツオ節は見つからなかったので、乾燥した小魚だ。これらをすり鉢で細かくして、混ぜ合わせるのだ。
グルタミン酸やイノシン酸……どれがどれか分からないけど、魚とキノコを加えればそのナントカ酸の相乗効果で美味しくなるハズという適当な前世知識が元である。あと、昆布を足したら完璧かもね。
なお、この調味料作りは私一人でこっそり行った。料理関係はいつもシェフのジョンに手伝ってもらうけど、余所のシェフの料理が不味くて……なんて言いにくかったからだ。それに、スパイスを適当に混ぜるだけだし。
出来上がった調味料は、まさに魔法の粉だった。
野菜にかけても、肉にかけても美味しい。素晴らしい万能調味料だ。
そんなワケで、他家に行くときはこっそり袖に隠して持って行っている。料理がいまいちなときは、人目を避けてささっと振り掛けるのだ。
これを掛けて食べたら、たぶん、ルパート閣下も食に対する意識が変わるんじゃないかなあ。
ブクマが100件に到達しました。嬉しい~、きゃ~!
元は全40話くらいの粗筋を立てていたのですが、好きなように書いていたらどんどん話が膨らんでいって……それがこんな風にたくさんの方に読んでもらえて感無量です。
途中で精根尽き果ててしまわないよう、頑張ります。




