お父さまにおねだり
「可愛いアリッサ。君は最近、何を企んでいるのかな?」
お父さまだ。マクシミリアン・カールトン、私と同じ深紅の髪、金瞳。細い銀縁眼鏡をかけた理知的風貌の、当然ながら美形父である。
正直、このお父さまは油断ならない。祖父母、兄姉、母は“アリッサ可愛い”以外、何もないが、お父さまは違う。どのくらいの"可愛い"かをしっかり測っている。
今まで、姉さま達と比べて、私はただ見た目の可愛さしかなかった。お父さまにとって、それはそんなに価値のない可愛さだった。
だから、飾ってある美術品をたまに愛でる感覚で私を可愛がっていたと思う。
ところが最近、私が色々始めたものだから、価値を見直す気になったらしい。
高校の生物学の先生を思い出す眼差しで、私を見ている。
私はにっこり笑った。
「わたしはただ、お母さまみたいな、すてきなレディになりたいだけですわ」
「そうか。目標があるのは、いいことだな」
お父さまは目を細めて笑う。
「頑張る子には、褒美をあげないといかんな。何か欲しいものはあるかい」
「モノではなく、見学につれていってほしいところがあります」
「おや。それはどこかな?」
私は真っ直ぐにお父さまの目を見つめた。
「お父さまの商会です」
カールトン家の領地は、ブライト王国南部。果樹園の広がる豊かな地だ。
その特産品である果物でジャムなどを作り、各地に販売している。
カールトン商会は、それらの商品を扱う。
私がお父さまに商会見学を希望して数日後。
私はお父さまと王都の商会まで見学に来ていた。
たくさんの品物と、店員と。さすが王都の一番華やかな通りに店を出しているだけはある。すごい。
扱っている商品も、自領の特産品だけでなく他国から仕入れた香辛料や乾物も扱っていて見ているのが楽しい。
「お嬢様は、どのような商品に心惹かれますかな」
王都店店長のブルーノがにこにこと問うてきた。口ヒゲの似合うイケオジである。
「やっぱりめずらしい食材は、気になります。でも、めずらしいと、つかい方がわからないですよね?絵をつけたレシピとか、いっしょに置くと、すごくいいと思うんですが」
はっとお父さまとブルーノが顔を見合わせた。
「あと、大すきなジャムがあまり売れてないんですね。いちど、ししょく会をするのも良いのではないでしょうか。たべたら、ぜったい、良さがわかります」
私のアドバイスは即、取り入れられた。そして翌月から月に1回、お父さまと商会へ行くのが恒例となった。
もう少ししたら、商会でアルバイトもさせてもらうつもりだ。もちろん、しっかりバイト料ももらう。今のうちに稼いで、貯金をしておくのだ。