たぶん、緑の妖精さん
夏至祭は当然ながら夏の訪れを祝う祭だ。そして、それとともに無病息災を願う。
王都では、花火が上がるらしい。
あと、ルマという木の実を投げ合うのだとか。前世の豆撒きみたいなものかしらん?もっともこれは庶民が行うことで、貴族はしないらしいけれど。
リックに聞いたところでは、カールトン領でも庶民は同じことをしているようだ。更に、街中に大きな篝火が焚かれ、その回りで一晩中踊るとか。
他にもあちこちで楽器演奏や演劇などが行われるらしい。リックとテッドは魔物退治の演劇に出ると聞いている。うう、見たかった!
クローディアさまのお誘いは心から嬉しい。
でも来年は、ぜひ、領の夏至祭を楽しんでみたい。
てゆーか、刺繍がなければね……本番はムリでも、リック達の練習を見に行けたのに!
ところで、ちょっと気になっていたのだけど、水龍公爵閣下は自領の神事は春華祭くらいしか出席しないそうだ。領関係は、ほとんどが弟君の仕事なのだとか。公爵閣下は内務卿の職で忙しく、クローディアさまもエリオットさまも基本は王都住まいらしい。
あれ?そういえば、うちのお父さまは公の仕事は何をやっているのだろう?お祖父さまの外務卿の職を引き継いだはずなんだけど……私、領と商会の仕事をしてるところしか知らないなあ?
さて、水龍公爵家では、テラスで食事しながら花火を見るのだそうだ。贅沢~。
それまで、エリオットさまのお部屋で過ごすことになった。
男の子の部屋に入るのって初めて。ドキドキする~。(アルフレッド王子の5才までの部屋には入ったけどね)
ドキドキしながら足を踏み入れたら、エリオットさまのお部屋は……ジャングルだった。
正しくは観葉植物だらけ。天井からもぶら下がっている。
「うわあ、圧巻……」
思わず感嘆の声を上げたら、エリオットさまは少し恥ずかしそうに視線を下げた。
「ここまで増やすつもりはなかったのだが……」
「エリオットさまがお世話してるんですか?」
「ああ」
「すごいです!」
私は前世で小学生のとき、夏休みの宿題でアサガオの観察日記をつけなければならなかった。途中で枯れたので、仕方なくそこから想像の観察日記を書いた。もしあのとき、エリオットさまが兄だったら……きっと枯れずに正しい観察日記を最後まで書けただろうに。(宿題は、ちゃんと先生にバレて『想像賞』という恥ずかしい賞とともに大きな×をもらった)
「緑は、落ち着きますよね。とてもいいと思います」
絶賛したら、ニコッと笑ってくれた。これこれ、エリオットさまのはにかんだ笑顔!胸にキュッってくるのよね。
クローディアさまが呆れたように室内を見渡す。
「エリオットってば、水をやりながら植物に話しかけていますのよ?ちょっとどうかと思いますわ」
「あ~、でも植物は言葉が分かるらしいですからね。話しかけた方が、キレイな花が咲いたり美味しい果物がなったりするとか」
「本当か?!」
エリオットさまが目を輝かせる。
えーと、前世でちらっと聞いた話だけど、ウソではない……と思う。
「という話を聞いたことがあるだけです……あ、あと、音楽を聴かせても良いかな……」
「なるほど。今度、聴かせてみよう」
エリオットさま、ウキウキだ。
エリオットさまって……もしかして水龍公爵じゃなく、緑の妖精なのかも?
そのうち頭から葉っぱが生えますわよ!とぶつぶつ言ってるクローディアさまに私は視線を移した。
「で、クローディアさまのお部屋はどんな感じなんですか?」
途端に、クローディアさまの動きがピタリと止まる。
あら?聞いちゃダメだったかしら。まさか汚部屋ってことはないと思うけど。
「わたくしの部屋は、あまり物が置いてなくて、面白みがありませんわ」
「……代わりに大きい生き物がいるがな」
「エリオット!」
??
どういうことだろう?大きい生き物?象とか?




