念願のパジャマパーティー?
「ありがとうございました……」
「うん、来て良かったよ……」
ベッドの上のクッション壁を眺めながら、王子はしみじみと呟く。
……恥ずかしい。
「前にかなり怖がらせてしまったから、もしかして……と心配になって」
「……忘れていたんですけど、ベッドにはいったとたん、おもいだしてしまって。ごめんなさい」
「アリッサ嬢が謝ることじゃないよ。あれは僕が悪かったから。……この部屋は広すぎるよね。違う部屋にしようか」
王子は私の頭を撫で撫でしながら、驚きの提案をした。
私は目を丸くして首を振る。
こんな夜中に、急に部屋の用意をするなど大変だ。ただ“怖い”という理由でそんな迷惑はかけられない。
大体、部屋を代わったところで、王城の部屋ならどれも似たようなものだろう。
「あ、だ、大丈夫です!もう落ちついたので、平気です」
「無理をしないで。手配はもうしてるから。……さ、おいで」
手を引っ張られ、部屋を出る。
ううう、メイドさん、ごめんなさい。
少し行った先に、明かりが見えた。扉の開いた部屋からの明かりだ。
王子に導かれ中に入ると、年配のメイドさんがにこやかな笑顔で立っていた。
「少し明るさの落とした明かりを多めに用意しましたので、あまり怖くないと思いますよ。わたくしどもも、隣の部屋に控えておりますので、遠慮なくお声掛けくださいませ」
ひえええ。
隣で待機??な、なんて面倒をかけちゃったの、私。
申し訳なくて、思わず涙目になりながら、「すみません~」を連発した。
王子が苦笑する。
「アリッサ嬢は悪くないと言っているのに。ほら、ここは僕が5才まで使っていた部屋だ。ぬいぐるみも沢山あるし、怖くないだろう?」
ベッドには天蓋があり、幾重にも薄いカーテンが掛けられている。カーテンをめくってベッドに入ると、秘密基地めいた空間に王子の言葉通り、たくさんのぬいぐるみがあった。
か、可愛い……。
カーテン越しに柔らかなオレンジの明かりが周囲を取り囲んでいて、確かに、全然怖くない。温かな安心感だけがここには存在する。
私はホッとして、思わず笑顔で王子を振り返った。
「くつろげますね、ここ」
「良かった。じゃあ、今夜はここでお休み」
「はい。本当に、ありがとうございます」
大きなクマに抱きつきながら布団に潜り込む。潜り込みながら、「殿下は、ぬいぐるみがお好きですか?」と聞いた。
王子が肩をすくめる。
「母上が大好きなんだ。母上の部屋もすごいよ。全部、名前をつけて、ちゃんと物語まであってビックリする」
「そ、そうなんですね」
「アリッサ嬢が抱いているのは、トムソンだ。ウサギのリアが大好きで、トマトが嫌い」
「うふふ、リアは誰が好きなんですか?」
「リアは、キツネのティムのことが好きだね。だから、ティムの好きな紅茶を上手に淹れられるよう、いつも練習してる」
ぬいぐるみ達の可愛くて楽しいエピソードは尽きることがなく、私は次々にお友達を紹介してもらった───。
起きたら、目の前に王子がいた。
「?!」
慌てて飛び起きる。
その動きで、王子も目覚めたみたいだった。
「!!!」
私以上に慌てて起き上がり、その勢いでベッドから転げ落ちる。
「だ、大丈夫ですか、殿下!」
「だ、大丈夫。ご、ごめん、寝落ちしてしまったようだね」
真っ赤になって王子が頭を下げる。
私は胸の動悸を抑えながら、なんでもないように笑ってみせた。
「一度、お友達とパジャマパーティーをしてみたかったんです。夢がかないました」
王子は赤い顔のまま、「そっか……友達とパジャマパーティーか……」と呟いている。私は力一杯頷いた。
「はい。だって、殿下とは友達ですもん!」
「う、うん……」
まだ子供だけど、王子は変に生真面目だ。子供同士がただ同じベッドで眠っただけで、妙な責任を感じられても困る。
ここは、もっと“お友達”を強調しておこう。
「殿下。前から言おうと思っていたんですけど。……友達ですから、アリッサ嬢じゃなく、アリッサって呼んでください。殿下のことも、アルって呼んでもいいですか?」
どう?
愛称呼びなんて友達っぽさが増さない?
王子は、その瞬間、綺麗な瞳を潤ませた。
「……うん。アリッサ」
よし。これで王子との友情は確立した!
これにて王城一泊編終了です~。
明日から1日1回更新に戻ります。




