勝てるときに遠慮なく勝っておきます
持ってきたケーキを一緒に食べながら、その後は新作ゲーム・リバーシを出して説明し、実際に二人で遊んだ。
王子には悪いが、遠慮なく勝たせてもらう。だって、運の作用する人生ゲームならいざ知らず、こういう頭を使うゲームは、いずれ王子の方が強くなりそうだもん。今のうちに勝っておかなくちゃね?
王子は10連敗ののち、真剣な表情で考え始めた。ヤバい、もう攻略法が見えてきたのかも知れない。
「これは良いゲームですね。思考力が鍛えられます」
青い瞳がキラリと挑戦的に光る。
……ゲームを売り出すとき、“アルフレッド王子絶賛”とか“激推し”とかのアオリ、入れてもいいかなあ?
さて夕食は、お土産のチーズがふんだんに使われていた。いきなり予定外のチーズ料理を所望されて、お城のシェフさん、大変だったかも……。
でも、初めて食べる美味しい料理が多く、私はつい大興奮。王妃さまに色々質問してしまった。
「この溶かしたチーズをかける料理に使うのがラクトで、こっちの料理はリンツ───」
だが、王妃さまも嬉しそうだ。説明に力が入る。
「ああ、これにグリュマールチーズがあれば良かったんだけど……」
「あ、王妃さま。フランドールの商会に伝手はありませんか?うちの商会はフランドールと今まで縁がなかったので、取り寄せが難しくて。もし、どなたかご紹介いただければ、販路を確立させます」
私のお願いに、王妃さまはキランと目を光らせた。
「……従兄に手紙を書くわ。カールトン商会に手を貸すようにって」
「ありがとうございます!」
「そうしたら、グリュマールと、レーニアと、マルロウのチーズを……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
さすがに初めて聞くチーズの名は覚えきれない。私は急いでメモ帳と万年筆を取り出した。
王妃さま、すっかり目の色が変わってるよ。チーズ愛、深いなあ。
「あら?そのペン、インク壺なしで文字が書けるの?」
いやん。王妃さまってば、目敏い。
「はい、軸の中にインクが入っています。帝国で最近、作られるようになった万年筆というペンなんです」
「便利そうね。わたくしも使ってみたいわ」
「今、ためし書きされますか?先日、3種類とりよせて、実際の使用感を しらべているところなんです。ペン先がひっかかるものや、インクがたれやすいものがあって」
なかなかお高いペンなので、一番使いやすい工房のものだけ輸入したいのだ。
王妃さまだけでなく王子も興味津々で覗き込んでくる。なので、お二人に試し書きをしてもらった。
「これは、本当に便利だな!カールトン商会で輸入予定なのかい?」
「はい。冬くらいから扱うことになると思います」
王妃さまが万年筆で書いた自分の文字を眺めながら、
「今、10本くらい予約して良いかしら?」
「えっ、だいぶお高いですよ?」
「たった10本で王家が払い渋るほどのペンじゃ、商売にならないわよ?」
笑われてしまった。
いかんいかん、つい、前世の感覚が出ちゃったわ。100円でもっと使い勝手の良いペンが買える世界と比較しちゃダメよね。




