ケーキと、プレゼントと
少し文章量が多めです。
さあ、それでは今回、王城まで来た任務を果たさなくては。
まずは、ケーキね。
内心、ドキドキしながら王子に渡す。
商会で扱っているドライフルーツをたっぷり入れたパウンドケーキで、私の手作りだ。
ちなみにこれ、私が前世の知識で作れる唯一のケーキである。作れる、は語弊があるかな。材料とその分量が分かっているケーキ、だ。お菓子作りをしていなかったんだから仕方がない。
材料が全部1パウンドだからパウンドケーキ───という記憶のみを頼りに、シェフのジョンと試行錯誤を繰り返して作った。こちらの世界はクッキーか、パンケーキのような種類のお菓子しかないので、ちょっとしたお菓子革命だ。完成品を食べたジョンが小躍りして喜んだ一品である。
でも実をいえば、私としては生クリームたっぷりのショートケーキを作りたかった(ていうか、私が食べたかった)。でも、悲しいことに前世で作ったことがないし、何より、生クリームがない。
王妃さまの生国なら、あるかも?って期待したけど、それっぽいものはあるようなのに、稀少品で保存が利かないということで取り寄せは無理だった。あーん、がっくり。
生クリームたっぷりのケーキとかパフェ、食べたいわぁ……。
はっ、話がズレた。
ま、ともかくそんなワケで、少なくともこの国では一般的でないケーキを見て、王子は目を瞬かせた。
「これは……?」
「殿下の誕生日のお祝いに、ケーキを作ってきました!お口に合うといいんですけど」
「え?アリッサ嬢が作ったの?!」
「はいっ」
緊張のあまり力いっぱい返事したら、王子は片手で顔を隠してしまった。あれ?
「誕生日なんて……父上だって忘れているよ……」
えーと……喜んでいるのかな?
耳たぶが赤くなってる。
───予想外に可愛い姿に、ちょっとキュン。
「それと……あと、プレゼントです」
続いて差し出したのは、10㎝ほどのダガーナイフ。こちらの世界では、違う名前だったと思うけど。
実はこれ、最後まで悩んだのよね……王子にぴったりのプレゼントとは思えなくて。でも、他に良いものが思い付かず、ギリギリで決めた感じ。
「何がいいか、すごく なやんじゃって……このナイフ、アルカスターでは守り刀として人気なんです。気休め程度ですけど、殿下の御身の安全を守ってくれたらいいなって」
リックへのプレゼントを買ったとき、ついでに自分用に買おうかと考えていたナイフだ。小さいから懐に忍ばせたり足首に隠したり出来るのだ。カッコ良さそうでしょ?
一応、王子へのプレゼントなので、実用的なデザインより華美なものを選んだ。鞘は白、金の飾り金具、柄には赤い宝石。
なお、宝石はマシューに相談したら、ものすごく考え込まれ、この紅蓮石を勧められた。何故か、絶対これがいいと言い切られて。
「赤い石……!」
「紅蓮石といって、困難や危険を焼き払うって意味があるみたいです」
王子は不意にナイフを手に取って、恭しく口付けをした。
……え、なんか仕草が妙にエロいんですけど。
「ずっと、身に着ける。これから一生」
「えええ?!」
「そうだ。同じものを、アリッサ嬢にプレゼントしてもいい?」
「えーと、誕生日プレゼントのお返しは変だとおもいますが……」
王子は艶やかに微笑んだ。
「去年、母上が君へのプレゼントを選んだんだ。あのとき、僕はまだ君のことをよく知らなかったから。……改めて、贈り直したいな」
うーん、うーん、ナイフ交換って友情の証っぽい……かな?
まあ、元々、買おうと思ってたし、王子から贈ってもらってもいっか。
マシューはもちろん、アリッサの髪の色の石を選びました。
テッパンですが、アリッサはそのことに気付いていません~。




