ノーコメント!
王妃さまとチーズ談義で盛り上がっていたら、アルフレッド王子が現れた。
珍しく機嫌が悪そうだ。
「母上。何故、アリッサ嬢がもう来られているのに、僕には知らされないのです?」
「あん、もう。女同士の語らいを邪魔しないで貰いたいわ」
「母上の相手を無理矢理アリッサ嬢にさせないで下さい」
王妃さまは、私に視線を向けた。
「アルフレッドより、わたくしとお喋りする方が楽しいわよね?この子、気のきいたことも言えないし、話も面白くないでしょう?」
………………うう、これ、ノーコメントでいいかしら。
固まってしまった私に王子は優しく微笑み、空いている席に腰を下ろした。
「母上の相手をさせて、申し訳なかった。疲れたのではない?」
やーめーてぇ~。リアクションにも困る。泣くよ、私……。
硬直したままの私を見かねたのだろう、王妃さまは苦笑いしながら立ち上がった。
「アリッサをこれ以上困らせてはいけないわね。仕方がないから、我が儘息子に譲るわ。……夕食のとき、またゆっくりお喋りしましょう」
艶然と微笑み、侍女にチーズを持たせて退出する。
王子は王妃さまが出ていくのを確認し、ホッと息を吐いた。
「まったく母上は」
「でも、いろいろフランドールの話を聞かせていただけて、面白かったです」
気は使ったけど、別に嫌だったワケじゃない。王子に、王妃さまとの時間も楽しいと、伝えておかなくては。
王子は、再び溜め息をついた。
そろそろ、男の子が母親をうっとおしく感じる年頃なのかしらん。
「……あのチーズ。アリッサ嬢が持ってきたの?」
「はい。フランドールのチーズです」
「取り寄せるのは大変だったんじゃ……」
「いえ、カールトン商会は、他国の食材も扱う店ですから!フランドール産のチーズもいずれ扱いたいんです」
今後の役に立つからと、チーズ取り寄せはマシューと二人で手配した。とても良い勉強になったと思う。
でも、出来たら直接フランドールへ行って買い付けをしてみたいのよね。
そんなことを考えていたら、王子がなるほどと呟いた。
「アリッサ嬢は、半分、商人だもんね」
「はい。……最近は半分より8割くらい商人になった気もしますが」
「世の中には、他にもっとアリッサ嬢の興味を引くものがあるかも知れないよ」
「そうですよね……。まだ学校にも行ってませんし、完全な商人になってしまわないようにします」
神妙に答えたら、王子は可笑しそうに身を震わせて笑った。




