お好みのチーズをどうぞ
いざ、王城へ!
前回と違い、正門からではなく別の小さな門から入ったが、案内されたのは前と同じ部屋だ。
やはり王妃さまに出迎えられた。はあ、お母さまにはあれほど「さっと王子に会うだけでいい」と言ったのになー……。
「いらっしゃい、アリッサ。待っていたわ!遠慮せず、もっと頻繁に遊びに来てくれていいのよ」
……いいえ、ここは頻繁に遊びに来る場所じゃありません!
でも、考えてみたら、王妃さまも寂しいのかしら。他国から嫁いで来られた方だもんね。
とりあえず、王妃さまへの贈り物も用意しているから大丈夫!
「こちらは、母からの手紙です。それと、こちらはわたしから王妃さまに……」
王妃さまの生国フランドールから取り寄せたチーズだ。テーブルにずらりと並べる。
「どれがお好きか分からなかったので、お気に召さないものがあるかも」
「まあ!まあまあ!」
王妃さまの神秘的な紫の瞳が大きく見開かれた。
「エンタールにリンツに……ヤギのチーズもあるのね!」
うっすら涙目になっている。
ブライト王国でもチーズはあるが、フランドールほど種類は多くない。
今回、要冷蔵の品も魔道具で冷やしながら苦労して取り寄せたのだ。これだけ喜んでもらえたら、その甲斐はあったと思う。
「アリッサ……ありがとう。あなた、やっぱりうちの子になっちゃわない?」
「チーズのお取りよせなら、わたしが王家の子になるより女商会長になって、王妃さまご用達をうけたまわる方がよいと思いますけれど」
「……悪くないわね。それに女商会長なんて、とても革新的だわ」
「ありがとうございます」
王妃さま、意外と話の分かる方かも?
これはガンガン、チーズを贈るべきかしら。
「はあ、またヤギのチーズが食べれるなんて思わなかったわ」
王妃さまは、うっとりとチーズを撫でた。
「……ヤギのチーズが一番お好きなんですか?」
「あら、アリッサはお気に召さなかった?」
「あー……えーと、ちょっと匂いが……」
せっかくなので、チーズは多めに取り寄せ、全部、マシューと一緒に試食している。ヤギのチーズは、かなりクセがあってマシューも私も合わなかった。
が、王妃さまの好物に「不味い」とは言えない。
王妃さまはウフフと楽しそうに笑う。
「いいのよ~、美味しくないって言っても。これは好みが分かれる味だから。食べやすいヤギのチーズもあるのだけれどね。でも、わたくしの故郷の味を大切にしてくれてありがとう。そして、本当に、こんなにも持ってきてくれて、ありがとう!」
「いいえ。食べなじんだ味を、食べられなくなるってとても辛いと思いますから」
私も前世を思い出してから、やっぱり日本の味が恋しいもん。
王妃さまの恋しさが少し減ったのなら、それはとても嬉しいことだ。
今日から朝夕2回更新です。




