一家総出でお祈りを始めます
今回はちょっと文章量多め……
真っ白な衣装に身を包み、馬車に乗って神殿へ。
春華祭の始まりだ。
これから、夜通しお祈りをするのだ。
「この神事は、特に重要なものだからね。心して祈るように」
お父さまが私に目を合わせて言い含める。私は素直に頷いた。
神殿に着くと、周囲にはかがり火が焚かれていた。
入り口で待っていた神官長に伴われ、お父さまを先頭にお母さまお祖父さまお祖母さま、兄さま姉さま達とぞろぞろ神殿の中に入る。
中に入って、驚いた。
床に魔法陣らしきものが描いてあるのだ。普段、何も描かれていないので、春華祭のこの神事のために描かれたのだろう。かなり大きい。
魔法の勉強を始めたおかげで、多少、陣の構造や書かれている文字について分かるようになったけど(でも、まだ陣を使う魔法まで習得してない)、この陣はかなり古くてさっぱり分からない。三千年以上昔の、古王国時代の呪文が描かれているような……?
私が熱心に陣を眺めているからだろう。神官長が横に来て説明をしてくれた。
「この陣は、神官達が3日ほど掛けて描くのですよ」
「とても むずかしそうな陣ですね」
「ブライト王国建国以前から伝わる古いものです。国土を守るとても大切な陣だとか」
「くわしい内容は、わからないのですか?」
「王城の禁書庫に資料はあると聞いております。国の根幹を支える魔法なので、王族以外は詳しい内容を知らないのですよ」
各領地で行われる国の根幹を支える重要な魔法なら、領主もちゃんと知らないといけないのでは?と思ったけど、転移陣も仕組みは王族しか知らないと聞く(転移陣を真似て陣を描いても、発動しないらしい)。
王族の優位性を保つために秘してるのかなあ。
というか、お父さまはお祈りって言ったけど、これは魔法ってことじゃない?
「まあ、アリッサは魔法に興味があるの?」
私が考え込んでいたら、お祖母さまがにこにこと尋ねてきた。
それに答えたのはオリバー兄さまだ。
「アリッサは、魔法だけじゃない。何でも興味を持つよね」
「将来は学者かしら……」
「いやあ、アリッサは商売の才能もあるし、人との関係を作るのも上手だし、そのうち王家の嫁に望まれてもおかしくないなぁ」
最後はお父さまだ。
とんでもない話の飛び方に、私は思わず息を呑んだ。
「ムリです!王家へとつぐのは、わたしには荷がおもすぎます!」
「おや?アリッサはそちらには興味がないのかな?」
「ありません」
即座に断言する。
視界の端で、お母さまが悲しそうな顔をするのが見えた。……やっぱりアルフレッド王子とくっつけたいんだ。早く諦めてくれないかしら。
一方、お祖母さまが不思議そうに首を傾げる。
「あら?アルフレッド王子とアリッサは仲が良いと思っていたのだけど」
お母さま、両手を握り締めてこっち見ないで!
「殿下とは、おともだちです。……前に、礼儀作法がきちんと出来ていなかったとき、殿下はわたしはそのままでいいよ、とおっしゃいました。いずれ妻にとおもっていたら、きっと、そんなこと言わないです。王族として礼儀の重要性をしっておられるんですから。殿下は、わたしのことを 気をつかわなくていい ともだちだと思っておられるんです」
ここでしっかり“友達”を強調しておかなくちゃ。
私が必死で言い募ったら、お父さまがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「公爵家から王家に嫁入りすると、四大公爵家のバランスが微妙になるからね。まあ、アリッサが興味ないなら無理に進める話ではないかなあ」
あれ?そうなの?
ちらっとお母さまの方に視線を向ける。
お母さまは、口を尖らせていた。なるほど。お父さまは、アルフレッド王子との婚約に反対。お母さまは賛成ってことね。
じゃ、お父さまをしっかり味方につけておこう。これで安心だわ!




