手作りプレゼントは流行らせない
食事会は、本当に楽しい時間となった。
アルの帝国の話や、私の船旅の話は特に盛り上がった。まさかアルがフロヴィンの店でアルバイトもしたなんて、ビックリだったけどね!
最後は、プレゼントだ。
マーカス殿下から始まり、みんなが順々に渡してゆく。ラストが私。
みんな、特に包装してないのに、私だけ包装してるって……変かな。
変だよね。
でも。
仕方ないじゃん!
さっと渡して、中身は部屋で見てねと言おうと思ったのに……それよりも先にディが「まあ!中身は何かしら?」なんて言い出した。マーカス殿下が重々しく頷く。
「包装して渡すというのは、良いな。ワクワクする」
「殿下、開けて開けて!」
ちょっと、マーカス殿下にアナベル姉さま!
中身、知ってるクセに何を言うの?!
―――アルは私をちらりと見てから、真剣な顔で、慎重に包装を解き始めた。
ううう。
やばい。
お腹が痛くなってきた。
この、妙な待ち時間……死ねる!
アルはかなり丁寧に時間をかけて包装を解き、出てきた剣帯を見て……だけど何故か、そのまま固まった。
…………あ、あれ?
思ってた反応と……違う?
「あら、とても素敵な刺繍ですわ!」
「アリッサ嬢が刺したのか?」
ディとエリオットがアルの様子に気づかず、声を上げる。その声に、アルは弾かれたように私を見た。
「この刺繍……アリッサが?」
「う、うん。……前に、刺繍したやつが欲しいって言ってたから」
「…………」
みるみるうちに、アルの顔が赤くなった。
そして慌てたように横を向いて片手で顔を隠す。
「あ、ありがとう……」
「うん……」
「…………」
「…………」
うわわ、わ。
ど、どうしよう。変な沈黙の間ができちゃった。
あたふたしていると、ふいにエリオットが悲しそうな目で私を見た。
「私が欲しいと言っても……もらえるだろうか?」
「え?……う、うん!もちろん刺繍するよ!?ただ、剣帯は刺繍するのが難しかったから、もう少し簡単なやつになるかも知れないけど」
や~ん、助かった!
エリオットの言葉にホッとして、私は力強く返事する。
うんうん、そうよね。考えてみたら、友達には、刺繍したアイテムをプレゼントするべきよね?!エリオットだけじゃなく、ディにも、なんならマーカス殿下にもあげちゃう!
……ハンカチの隅にワンポイントくらいでないと、私が大変だけど。
するとディが険しい顔をして、エリオットをドン!と押した。エリオットがムッとする。
「こんなときに何を言い出すの!」
「このような時でないと、言えない」
「だからってね……」
いつもはおとなしいエリオットが、このときばかりは眉を寄せて声を上げた。
「でも、ディ以外のハンカチが欲しいじゃないか!」
「まあ!わたくしの刺繍が下手だって言うの?!」
「嫌というか……ポーリーンの刺繍がリアルすぎる……」
…………は?
ポーリーンの刺繍?!リアルな??
ポーリーンは、ディの飼っている大きなトカゲだ。それの刺繍って……。
うーん、それは……ちょっと気になるかも。
その場の全員が、たぶん、そう思ったんじゃないかしら。周りにいた侍女たちも、ピタッと動きを止めてディとエリオットを見ている。ポーリーンが何か分からないはずなのに。
ディは真っ赤になって咳払いした。
「つ、つまり、わたくしの刺繍の腕が良いということですわよね!」
はっ!
今の話の流れに乗れば、私の刺繍剣帯から話が逸れてくれそう。
私は、赤い顔のディに話しかけた。
「……ディの領の人は、みんな刺繍必須なんだよね?キレイな糸を領で作っているから、凝った刺繍する人、多そう~!」
「そうですわね、絵画のような刺繍をする方もいますわ。わたくし、それに比べるとまだまだですわ……」
ディも、リアルなポーリーンの刺繍の話を変えたいのだろう、すぐに返してくれた。
「そうそう、近頃は絹糸でレース編みもやっておりますの。この頃は我が領の売れ筋商品ですわ!……ちなみに、エリオットも上手いんですのよ」
「エリオットもレース編みするの?!」
あれ?
なんだか思わぬ方向へ話が転がった?
今度はエリオットが赤くなった。
「……我が領の特産だから、どのようなものか知っておく方がいいと思って、ほんの少しやっただけで……」
「我が家のクッションカバーのほとんどはエリオット作じゃないの。完全に売りに出せるほどの腕前だわ」
「ディ!」
あらら~。エリオットがそんなにレース編み上手いなら、私の下手な刺繍なんて、プレゼントしにくいじゃん。
「あ、手作りといえば!」
重要なことを思い出した!
「マーカス殿下からのプレゼントも、殿下の手作りだよ、アル」
「え?」
「特別なものをあげたいって」
アルが驚いたように、手元の短剣とマーカス殿下を見比べる。
マーカス殿下もちょっと顔が赤くなった。
渡すときに言えばいいのに、言わなかったのよね。私も自分のプレゼントで頭がいっぱいだったから、気づかなかったんだけど。
アルは、言われなかったら分からないと思う。だって、メインが短剣に見えるんだもの。
「手作りといっても……短剣ではなく、それを入れる革の部分のことだ。飾りをつけたり、刻印を押したりしただけで、手作りというほどでは……」
「でも、少し縫いましたよね?」
「少しだけ」
アルがまた、あのステキな笑顔になった。
あう、眩しい……。
「ありがとうございます、兄上……!」
「ちょっとちょっと、待って!」
ほんわかと和む場に、突然、アナベル姉さまが立ち上がった。
どうしたんだろう。
「誕生日プレゼントは手作りで―――みたいな流れを作るのは止めて~」
「ホントだよ!下手な手作り品をプレゼントするワケにもいかないし、手先が器用じゃない人間は大変じゃないか!」
あとに続いたのはライアン兄さまだ。
一瞬、部屋は静かになったあと、どっと湧いた。
「その通りですわね。……マーカス殿下とアリッサのプレゼントは、極秘事項ですわ!」
ディが絶妙な締めをしてくれた。
うんうん、騒がれたくないから、ぜひ、そうしておいて~。




