今日は地龍公爵家へ
先週は予告なしでお休み、すみません。そのわりに、この新話も箸休めっぽい内容です……。
ディやエリオットのウビドリンクに対する感想を聞いて、アナベル姉さまはすぐに売り出すのではなく、少し売り出し方法を考えてからにするようだ。
「ディの感想が一般的だとしたら、失敗する可能性が高いわ。味は悪くないのだから、売り出し方を工夫するべきね」
姉さま、頼もしい~……。
その日の夜、お父さまに呼ばれた。
このところ、お父さまは仕事が忙しいらしく、私がすでに就寝準備を終えた頃の帰宅だった。
「お帰りなさい、お父さま。なんの用ですか?」
「ただいま、アリッサ」
お父さまの執務室に入ると、まずはぎゅっと抱きしめられた。
く、苦しい。
「ようやくアリッサが長い旅から帰ってきて、今は王都にいるというのに……はぁ、夕食も一緒に食べることが出来ないとは……」
「お父さま、苦しいって」
「明日は!明日は早く帰ってくるからな……!」
「う、うん。わかった。お話って……そのこと?」
そんなに私と一緒にご飯を食べたかったのかな?
「いや、違う」
なんだ、違うのか……!
「マーカス殿下がな、アリッサが王都にいるなら会いたいと言われてな」
「マーカス殿下が……?えーと、明日はムリだけど、明後日なら……」
また急な呼び出しだなぁ。
はっっっ、やばい、マーカス殿下にはお土産を買ってないよ。……いや、渡さない方がいいのかも?
また、婚約の噂とか立てられちゃう。
私はつい前世の感覚で、旅行へ行ったらみんなにお土産!と買ってしまったけど、普通はあんまりあっちこっち配らないみたいだし。
「城で会うと周りもうるさいから、殿下が内密に商会の方へ来てくださるそうだ。……アルフレッド殿下の誕生日のことで相談がしたいらしい。……あまり王城へは行かん方がいいから、ちょうど良かろう」
「アルの誕生日のことで?分かった、じゃあ、明後日に商会で」
ジョージーナさまたちとも会いたいけど、時間、作れるかしら……。
翌日、朝食の席へ行くと、お父さまはもう仕事に行ったあとだった。
お父さま、本当に忙しいね。ちゃんと休めたのかなぁ。
心配しつつ、私も出掛ける準備をする。
今日は地龍公爵家へ行くのだ。
―――郊外の地龍公爵家へ着くと、ユージェニーさまが侍女とともに玄関で待っていた。
「おかえりなさい、アリッサ様。あなたに会えるのはいつかしらと、指折して待っていましたよ」
「おひさしぶりです、ユージェニーさま」
私は車イスのユージェニーさまに駆け寄り、手をぎゅっと握った。
ユージェニーさまの目が細まる。
「お元気そうね。……楽しい旅の話をたくさん聞かせてくれるかしら?」
「はい!ぜひ!」
大きく頷いて、私は後ろの侍女にお願いし、ユージェニーさまの車イスを押させてもらう。
今日はどうやらダライアスさまは不在のようだ。まあ、お父さまも忙しいから、翁も忙しいんだろう。
なんといっても、マーカス殿下の立太子の儀とアルの誕生日会同時開催が迫っている。他国からの賓客も多いから、準備に追われているに違いない。
「ダライアスはこのところ、王城へ泊まり込んでいるの」
前にも案内された庭がよく見える部屋へ向かう途中、ユージェニーさまが教えてくれる。
「ここから通うのは大変でしょう?……でも、今日は午後に一時帰宅すると連絡がきたわ。アリッサ様にお会いしたいみたい。ふふ、儂が帰るまで、引き留めておいてくれですって」
わあ、ダライアスさまと会えるんだ。嬉しい。
……ダライアスさまとユージェニーさまは、なんというか、もう一人のお祖父さま・お祖母さまみたいなんだよね。
そうそう、お祖父さまといえば。立太子の儀のときに、お母さまのお父さま、つまりもう一人の血の繋がったお祖父さまと初めて会えるらしい。
お母さまの実家はブライト王国の北端、キャラハン辺境伯家。
急峻な峰々に囲まれた苛酷な地で、北部の守りをしている一族の出身だ。王都から遠いし、辺境の守りという仕事柄、辺境伯はほとんど王都へ来ることが無いのだという。お母さまも、結婚以来、一度も実家へは帰っていないらしい。
どんなお祖父さまなのかなぁ……。ちょっとドキドキするね。
ユージェニーさまに、お土産の帝国の珍しいお茶やお菓子を渡す。
他に、1本の糸だけどところどころ違う色になっている毛糸も渡した。ユージェニーさまは編み物もよくされると聞いていたからだ。
「まあ!とても綺麗で変わった糸ね。何を作ろうかしら」
とても喜んでくれて―――そのあとはずっと、私の旅の話だ。
だって前世も含めて、私にとっては初めての長期旅行。しかも異国。いくらでも喋れちゃう。
メアリーも同じようで、何かあるごとに「帝国ではこうでしたね」とか、「船の上では◯◯でした」とか、思い出したように旅の話をする。
私たちにとって、すごく大きな影響のある旅だったんだなぁとつくづく思う。
アゴが疲れそうになるくらい話してから、私は我に返った。
「す、すみません。いっぱいしゃべりすぎですよね……」
「ふふふ、わたくしはとても楽しくて嬉しいわ。でも、アリッサ様はさすがに喉も渇いたでしょう?少し、お茶を飲んでゆっくりしましょうか」
えへへ。ほんとだ、ノドが乾いてる……。




