美人な双子に新作ドリンクをふるまう
「アリッサ~!」
久しぶに会うなり、ディは両手を広げて飛びついてきた。
「もう、もう、信じられませんわ!貴族の子供は、学院へ入学するまでに冬の間はお茶会で交流するものですのよ!なのにあなた、この冬はずっと異国へ行っているだなんて!今までも、ろくにお茶会をしていないのに!」
「えへへ……久しぶり、ディ。会えて、うれしい」
ディにぎゅうっとされながら、扉の方を見たら、アナベル姉さまが苦笑しながら立っている。その後ろにはエリオットの姿も見えた。
3人は、学院の授業が終わるなり、商会の方へ来てくれたようだ。
今、私はカールトン商会カフェの2階にある特別室にいた。
「私も君に会えて嬉しい、アリッサ」
後ろにいたエリオットも、そっとこちらに来てふわりと微笑む。
うっっっ。ま、眩しい。
ディもエリオットも、美しさに磨きがかかってる……。
「う、うん……エリオットも久しぶり!」
「危険な冬の海の旅だから、すごく心配だった。無事に帰ってきてくれて……本当に良かった」
ディに抱きしめられたまま、エリオットには左手を優しく握られた。
何これ。
こんな美人双子に愛されてる私って、幸せ者じゃない?
ディとエリオットにお土産を渡す。
どちらも、魔風琴―――オルゴールだ。
ディは、台の上の可愛い人形が音楽に合わせてくるくると回るタイプ。エリオットは、シンプルな箱のオルゴールだけど、なんと二種類の違う曲が流せる。
アルダー・ル雑貨店でも少しオルゴールを取り寄せて置いているのだけれど、どちらもうちの店には入荷していないものだ。
「まあ、可愛いわ!」
「綺麗な曲だ」
二人とも、さっそくオルゴールを鳴らし、喜んでくれた。
私は真剣にオルゴールを聞いているエリオットに、ぜひ試して欲しいことを伝える。
「あのね、エリオット。前に言わなかったっけ?植物に音楽を聞かせると良い影響があるって話……。良かったら、エリオットが育てている植物にも聞かせてみせてね」
「ああ、そういえば、前に教えてくれたな!うん、さっそくこの曲を聞かせてみる」
パッとエリオットの顔が輝き、その隣でディがしかめっ面になった。
「アリッサ!止めてくださいな。あれ以上、エリオットの部屋で植物が繁殖したらたまりませんわ!学院の寮にたくさん持ち込んで、少し問題になっていますのよ」
「寮に持ち込んだの?」
「うん……特に大事な鉢だけを厳選して持ち込んだ。他の者に世話は任せられないから……」
「そうなんだ」
公爵家の子女は、個室だ。それで問題になるって……どれだけ持ち込んだんだろう?
大事な鉢だけ、って、ほぼ全部だったりして。
すると、エリオットはちらっとディを見て、私に顔を寄せた。
「でも、ディもポーリーンを連れてきているんだ。私のことは言えないと思う」
「えっ、ポーリーン、寮にいるの?!」
ポーリーンは、ディの大事なトカゲのこと。結構、大きいトカゲだった覚えがあるんだけど。
あの子を連れて来てる方が、問題になりそう……。
すると、アナベル姉さまがフフフと笑った。
「ディは、内緒でポーリーンを寮に持ち込んだのよね?で、ポーリーンが部屋を抜け出して行方不明になって、大騒ぎになって……」
「だって……だってあれは、ウィローがいけませんのよ!ポーリーンはちょっと散歩して、日当たりのいい窓辺でのんびり休んでいただけなのに、まるで魔物でも出たような悲鳴をあげて大騒ぎして!ポーリーンはおとなしくていい子ですのに……」
ふうん、すでに騒ぎになったんだ。
見つけた子、ビックリしただろうなぁ。
ディは不満そうだ。プッと頬を膨らませて文句を言う。
「おかげであの騒ぎ以降、ポーリーンはずっと水槽の中ですわ。たまには外へ出してあげたいんですけど、ポーリーンには特殊な首輪がつけられてしまって、外へ出すと寮監にバレてすぐ飛んできますの」
「仕方ないわよ。トカゲが苦手な子が多いんだから。……一応、休みの日に屋上での散歩は認められたじゃない」
「ポーリーンは布で覆い隠して連れて行くようにという条件がつけられましたけれどね。ああ、なんて可哀相なポーリーン……」
へええ。なんか寮生活、楽しそう~。
早く私も仲間入りしたいなー。
私もきっと、個室だろうけど……せっかくだから、二人部屋とかで寮生活が出来たらいいなぁ。
前世で寮に入ったことはないし、一人暮らしも経験してないから、どんな感じなのか、気になる。夜中までおしゃべりして、寮監が来たら慌てて寝たふりするとか……?
やってみたーい!
その後、ディとエリオットには、新作ウビドリンクを飲んでもらった。
ストロー代わりのセロー草を使って飲むというスタイルに戸惑いつつ、二人とも面白がってくれた。ただ、絶賛というワケじゃない。
「これは、かなり新しいですわね!でも、なんていうかこう……急に口の中にウビが入ってきたときは、ちょっとビックリしますわね」
「そうだね。慣れるまでは、変な感じかな」
しかも飲み心地だけでなく、二人はどうやらウビの食感も苦手なようだ。
私の手前、否定的意見を言わないように配慮しているけど……どちらかといえば、イマイチっぽい。
そっか……。
カールトン家は全員、「いいんじゃない?」って雰囲気だったので、誰でも好きになるって思ってたけど……そうじゃない場合もあるんだね。
食感が苦手とか、考えたこともなかったよ……!




