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報告会のあとは

 賑やかな旅の報告会が終わったあとは、自分の部屋へ。

 部屋の前には、ラクが待っていた。

「おかえりなさいませ、おじょうさま」

「ラク!ただいまぁ!」

 元気いっぱいに声を掛けたら、ラクは小さく微笑んで頭を下げた。

 おや?

 今までとちょっと様子が違う?

 内心首を捻っていると、横からメアリーが飛び出してきて、ラクをぎゅっと抱き締めた。

「ラク!長い間、一人で寂しかったでしょう!」

「姉貴。小さい子供じゃないんだから、それは止めろって」

 呆れたように言うのは、リックだ。ちなみに、テッドは今はここにいない。

 メアリーは、じろっと実弟を睨んだ。

「あんた、冷たいわねー」

「ていうか、俺にはゲンコツしかくれたことないだろ。なんでラクには甘いんだ」

「あら、リックもぎゅってしてあげようか?」

「ぜっっったい、イ・ヤ・だ!」

 間で、ラクが目を真ん丸にして固まっている。

 すると、いつの間にか侍女長が現れ、「メアリー!」と厳しい叱責の声が響いた。

「あっ、侍女長……!」

「ラクがようやく一人前になってきたかと思ったところなのに……あなたという子は本当に……もう一度見習いに戻りますか?」

「も、申し訳ありません!」

 慌ててラクを離し、メアリーはピシッと姿勢を正す。

 リックもいつの間にか、真面目な顔で直立不動体勢だ。

 侍女長はキビキビと私の前に来て、頭を下げた。

「お帰りなさいませ、お嬢さま。ラクはとても良い子で仕事をきちんとこなしていましたよ。どうぞ、褒めてやってくださいね」

 ああ、なるほど……それでラクが、前と雰囲気が違うんだね。

 侍女長は優しい目でラクを見ている。ラクも、侍女長の言葉に少し誇らしげな顔になった。

 ……良かった。

 私たちがいない間も、きっとラクは寂しくなく過ごせていたに違いない。


 翌日、久しぶりの自分のベッドで朝寝をたっぷり貪り……たかったのに、アナベル姉さまに起こされた。

「アリッサ!なんだか面白そうな素材が調理場に運び込まれていたんだけど!あれは、なぁに?」

 姉さま……目がキラキラを通り越してギラギラしてるよ……。太陽より眩しいよ……。

「姉さま、もうちょっとだけ寝かせて……」

「ダメ。春華祭の準備で忙しくなるんだから、のんびりしているヒマはないの」

 うえーーーん、食材、姉さまの目のつかないところへ運び込んでおいてと言っておけば良かった……。

 ―――眠い目をこすりつつ、姉さまと一緒に調理場へ。

 調理場では、ジョンもウキウキした顔で待っている。さらに、その後ろにはお父さままで。

「あれ、お父さま?」

「いや、母上がウビのドリンクが美味しかったと言っていてな。どのようなものか、少々気になるというか……」

 んもう。意外と、お父さまも待てない人だったのね?


 さっそくジョンに作ってもらったウビドリンクは、好評だった。もっともお父さまは、甘いものはそんなに好きでもないので、「うーん」といった顔をしたけど。

「あとね、色粉を混ぜたらカラフルなやつも作れると思う」

「それ、いいわね。ということは、これはやっぱりガラスの容器で提供かしら。でも、ちょっと飲みにくいのが難点ねぇ」

 アナベル姉さまは、やはりカフェメニューに加える気、満々だ。

 私はジョンを見た。

「何か、細い筒のようなものってないかなぁ?それで飲むと飲みやすいんだけど」

「細い筒……ですか。病人が使うセローとかですかね?」

「それ、どんなの?」

 ジョンが持ってきたのは、まさにストローだった。

 これこれ!

 この世界にも、ストローはあるんだ!

「セロー草は中が空洞になっていて、平民は病人に飲み物を飲ませるときにこれを使うんですよ」

 ほほう、草とな?

 そういえば、前世の"ストロー"って元は藁のことだったっけ。

「病人限定?」

「まあ、普通はそうですねぇ」

 ふぅん。病人が使うものだとしたら、これで提供したら嫌がられるかしら。

 とりあえず。

 太さがまちまちのセロー草の中から太いものを選び出し、それでウビドリンクを飲む。

 うん、やっぱり飲みやすい。

 アナベル姉さまも私の真似をして、セロー草で飲んだ。

「スポン!と口の中に入ってきたときはビックリするけど、飲むなら、確かにこっちの方がいいわね……」

「でしょ。それと、こうやって飲む方が上品かなって私は思うんだけど。女性の場合は、口紅がカップについたりしないし」

「そうね!アリッサの言う通りだわ!」

 姉さまは大きく頷いて、思案顔になった。

 きっと、どうやって売り出すか、考えているに違いない。あとは姉さまに任せてしまって大丈夫だろう。

 ふと、お父さまと目が合った。

「このウビ、もう少し小さく出来るか?」

「うん、別に小さくしても問題ないと思う」

 ジョンが腕をまくる。

「どれくらいの大きさですか?あと、何に合わせるおつもりで?」

「甘めの酒に合わせてみても良いかと思ったんだが」

「なるほど!それも面白そうですね。さっそく、いくつか試作品を作ります」

 あらら。自分はそんなに甘いものは好きじゃないのに、お父さまも、新商品開発に意欲的なんだ。

 実はウビ以外にも持って帰ってきた食材は幾つかあるのだけど……まあ、普通のドライフルーツとか香辛料なので。

 今日はもう、黙っておこうか……。

来週はお休みします。お盆で、執筆時間があまり取れない感じなので……。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 鉄は熱いうちに打てと言いますし、バレたらもう諦めだね(笑) ラクくんも良い方向に成長もしてるし、もしかしたらメアリーさんと将来恋人とか想像してしまうほど幸せだな〜と読んで…
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