ようやくカールトン領へ帰ってきたよ
カールトン領には、春華祭の5日前には戻ることが出来た。
ただ。
リーバルまであと1日という辺りで、海賊に遭遇したりもしたけどね。
急に船がこちらへ近寄ってきて……あれ、どうしたのかな?と思っていたら、それが海賊だったの。ほんと、ビックリしたぁ……。
だけど接舷して乗り込もうとした男たちは、甲板で仁王立ちしているバートを見た瞬間、くるりと回れ右。あっという間に逃げて行ったのには笑っちゃった。
「統領~、追っかけないんスかぁ?!」
でもって海賊相手に脅える風もなく、こっちの船員たちは戦う気満々。バートが苦笑して宥める始末だ。
「王国の領海なら追いかけるが、ここでは追いかけん。というより、今は早くリーバルへ帰ることが最重要事項だ!」
「ええーーーっ」
やる気いっぱいの船員さんたちを私が目を丸くして見ていたら、お祖父さまが嬉しそうに教えてくれた。
「昔はたちの悪い海賊がリーバル近郊にもおったが……バートが統領になってからはすっかり影を潜めるようになった。今回の海賊は、バートが留守にしておるのに気付いた輩どもだろう」
ふんふん、なるほど。
ということは、バートを見て逃げていったから、また今後はこの辺りに海賊は出なくなるってことね。
名残惜しいけれどバートとはリーバルで別れ、馬車で領へ。
屋敷に着くなり、お母さまが真っ先にこちらへ来て抱きしめてくれた。
「おかえりなさい、アリッサ!アリッサがいないのは、本当に寂しかったわ……」
「お母さま……」
お母さまの甘く優しい香りに包まれ、涙声を聞いたら……なんだか鼻の奥がツンとして私も泣きそうになった。
お祖父さまもお祖母さまもいたし、リックたちもいるから、この旅でホームシックとは全然無縁だったんだけど。
こうやってぎゅっとされると、ああ、帰ってきたんだなぁ、私の居場所はもう完全にここなんだなぁって、温かい安堵感がこみ上げてくる。
お母さまの上から、お父さまにもぎゅっとされた。
「無事に帰ってきたな。……おかえり」
「ただいま、お父さま!」
―――オリバー兄さまやグレイシー姉さまたちも揃い、さっそく旅の報告会だ。
まず、この旅の一番の目的だったライアン兄さまの婚約申し込みが……婚約ではなくもう婚姻したことになった件をお祖父さまが話す。
もちろん、サフィーヤ姉さまも同席している。
お父さまとお母さまは、ポカンとした。
「は?決闘?……どうしてそんなことになるんだ?」
詳しく話したら、お母さまがものすごく怒った。
「なんて酷い父親なの!こんな可愛い子をそんな扱いするなんて!……ライアン、その最低な父親もしっかり殴ってきたでしょうね?!」
ライアン兄さまは眉尻を下げ、声を上げる。
「母上……かりにも相手は一国の王だよ?そんなこと出来るワケないじゃん!」
「なに、情けないことを言うの。そこはガツンと……」
「コーディ!風習の違いがあるんだ、そんな無茶は言うな」
ライアン兄さまへ詰め寄るお母さまに、慌ててお父さまが間に入った。
「まあ!マックス、あなたは私のために体を張ってくれないの?!」
「もちろん、君のためならなんでもやろう。しかし、今回の旅にはアリッサや母上たちも同行していたんだぞ。ライアンが無茶なことをして、巻き込む訳にはいかないだろう」
「あ……そ、そうね。そうだったわね……」
……お母さま、過激~。サフィーヤ姉さまがビックリしてるよ?
場を取り成すように、オリバー兄さまがライアン兄さまの肩を叩いた。
「まさか、ライアンに先を越されるとは思わなかったよ。おめでとう!」
「そうだよなぁ、ついこの間まで、別に結婚する気ないからなんて言ってたのに」
セオドア兄さまもニヤニヤして言う。
ライアン兄さまはそっぽを向いた。
―――とりあえず、ライアン兄さまとサフィーヤ姉さまは学院卒業後に結婚式を挙げる、それまでは対外的には婚約者という形でいく、そして学院が休みのときはカールトン領のお祖父さまたちが住む別邸で過ごす、ということが決められた。
みんな、サフィーヤ姉さまを歓迎しているので、サフィーヤ姉さまは目を潤ませながら何度も頭を下げていた。
ライアン兄さまがこそっと私に話しかけてくる。
「サフィさ、帰りの旅の間にどんどん、表情が豊かになっていったよ。きっとアリッサの影響だ。ありがとう。……これから、領で過ごすようになったらさ。もっと、笑ってくれるようになるかな」
私は兄さまにトン!と体当たりした。
「ダメダメ、そこは兄さまが"僕が毎日、笑顔にさせる!"って張り切るところでしょ!」
「……!」
ライアン兄さまは目を見張り……
「あはは、アリッサの言う通りだ!」
と、私をぎゅっとしてから、サフィーヤ姉さまの下へ行った。
……ふふ、ライアン兄さま。しっかりサフィーヤ姉さまを幸せにしてあげてね!




