表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
358/368

寄り道、その2とその3

 次に寄った島は、バートが「姫は絶対、気に入ると思います」とイチオシしていた島だ。

 イチオシの理由は、名物の花。

 しかも、食べられる花。

 ……食べられる花なんて、前世でもあったじゃん!って思うでしょ?

 でも、ここの花はバートが推すだけあって、一味違う。

 プルメリアに似た花の花弁を食べるのだけど、シャクッという食感が薄く切った梨やリンゴっぽくて、味は……えーと、そう、ライチに似ているだろうか。美味しい。

 食べやすいし食感もいいので、どんどん食べちゃう。

 でも。

「賞味期限が短いんです。花を摘んだら、すぐ食べないといけない」

 バートの言うとおり。

 5分もすると、摘んだ花びらは茶色く変色し、べっちゃりと不味くなった。なんて面白い花だろう!

 そんな花なので、マカン花の周りにはテーブル席が設けられ、客は自ら花を取って食べるようになっている。

 ―――マカン花は、ジャラン島の一部エリアにしか育たたないそうだ。だからジャラン島は、そのエリアを高級リゾート地のようにしていた。

 たぶん、ここって金持ちしか入れないところなんだろうなぁ……。

「ここの土を入れた鉢にマカン花を植えても、すぐに枯れるそうです。魔法で花を凍らせて運ぼうとした者もいましたが、やはり、すぐに茶色く変色したらしいですよ」

 ぱくぱくと食べつつも、なんとかこの花をお土産に持って帰りたいなーという私の考えを読み取ったのか、バートが教えてくれた。

「ええ~、凍らせてもダメなの?!」

 くっ。

 いい方法だと思ったのに。

「はい。この地の、何かが重要なんでしょうね」

「えーと……たくさん食べても、問題ない?」

「三日三晩、花を食べ続けたとある国の豪商は、その後、100才まで生きたそうです。姫もきっと長生き出来ますね」

 ああ~、そりゃ、高級リゾート地化するわ、この島。


 ジャラン島を出て、そこからは真っ直ぐに帰る予定だったけれど。

 途中で急に船員たちが調子悪くなり……急遽、近くの港へ寄港することになった。

「お嬢さまは、部屋から出ないようにしてください」

 メアリーがそう言って、忙しそうに船員たちの看病に回っている。私も手伝うと言ったけれど、バートやお祖父さまからダメと言われた。

 うう、確かに私はたいして役に立たないけどさ!

 ……テッドが教えてくれたところによると、具合の悪い人はいっぱい吐いてて、大変なんだそうだ。

 吐く、か……。

 何か、悪いものを食べたのかなぁ?

 前世でノロとかO-157とか、どんなんだったっけ?

 とりあえずマスクとか手袋とか、そういうのをつけて看病した方がいいと思うのだけど。

 やきもきしているうちに港へ着き、具合の悪い船員たちは、港の診療所へ連れて行かれた。

 具合の悪くなった船員は、5、6人ほど。それ以上は広がっていない。

 一方、私やお祖母さま、サフィーヤ姉さまは、港の大きな宿屋へ連れて行かれた。

 このあと、船を元気な船員たちで丸洗いするのだそうだ。きっと、消毒洗浄ってことなんだろう。

 リックやテッドも駆り出された。

「数日、滞在することになりそうですか?」

 宿へ落ち着くなり、お祖母さまがバートに聞く。

 バートは首を振った。

「いや、春華祭までにカールトン領へ帰るためには、あまり長居は出来ません。代わりの船員を雇って、明日には出発します。明朝の出発は早い時間になりますので、今夜は早めに休んでください」

「わかりました」

 えええ、具合の悪い船員さん、置いていっちゃうの?!


 翌朝、夜明け前に船に行くと……具合の悪くなった船員さんたちも元気に働いていた。

「すんません、お嬢さま!いやぁ、サキットを食べちゃったみたいで」

「さきっと?」

 タラップを渡るときに手を貸してくれた船員さんが、照れ臭そうに頭を掻く。

「ビルイカンという魚に似てるんですがね。サキットは、食うとあとで腹を壊すんですわぁ!」

「えっと……もう大丈夫なの?」

「大丈夫です。ラワタン草の茶を飲んで、落ち着きました」

 そうなんだ。良かったぁ……。

「だから!オレたちが作るもの以外は、勝手に食べるなっつってんだろーが!」

 船乗りシェフのアントンが、出航の準備で動き回りつつ怒鳴る。周りから「そうだ、そうだ!」と何人かが笑うように唱和した。

 アントンはブツブツと続ける。

「まったくよう、サキットを食ったって言やぁ、わざわざ寄港せずに済んだのに。げえげえ吐いて、死ぬ死ぬ!しか言わねぇんだから」

「仕方ねぇだろ、腹が痛くてそれどころじゃなかったんだよ!それに、ビルイカンだと思ってたんだ、理由なんて分かるか!」

 ……出航してから、バートが詳しく教えてくれた。

 サキットという魚は、本来はこの辺りにはいない魚らしい。

「もう少し北の方にいる魚ですね。今年は海が荒れていたので、少し南下していたのでしょう。サキットは、食べて半日ほどすると腹が酷く痛くなります。3日は痛みでのたうち回りますが……でも、命に関わるほどではないんですよ」

「そうなんだ……」

「まあ、でも本当に痛いので。私も昔、のたうち回りました。もうあれは勘弁です」

 ひええ。

 帰りの旅は、なんだか食べ物にまつわる旅だったね。すっごく勉強になったわ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 持ち出せない花か〜 土地神様でもいて持ち出そうとしたら呪でもかけてたりして(笑) 流石に島自体が何かしらの生物で、花に釣られた生物を隠れて食べてるとかは夏のホラーだよね~ …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ