船の上でクッキング!
出発前に船へ新鮮な食料品を積み込んでいるのを見て、私はふと、通訳のタウさんに質問した。
「あの……食事のときに出てきた、これくらいの白っぽいホクホクした食感の食べ物、なんというんですか?」
「ああ……ウビですか?」
ふんふん、ウビというのね。
ウビは、薄いサツマイモみたいな味だった。この周辺の島の主食らしい。
「ウビを粉にしたものってありますか?」
「ありますよ!それを焼いて食べたりもします」
「えっ、焼くんですか?あの、こんな丸い玉みたいにして食べたりしませんか?」
「そんな小さな玉にして食べたことはないですねぇ」
あれ?思っているのと、違うのかな?
ま、いいか。
「そのウビの粉、少し分けて欲しいんですけど。……というか、買います。売ってください」
「ええ、もちろん構いませんよ!」
よし。
帰りの船で、アレが作れるか試してみようっと!
船には、当然シェフもいる。
シェフといっても、船乗り兼シェフだからか……なかなかゴッツい人たちだ。
一人は、船員の中で2番目に大きくて、二の腕なんか私の胴くらいあるんじゃないの?という人だ。
でも、ビックリするくらい繊細な包丁捌きをする。ぶっとい指なのに、キレイな飾り切りをさささっと作るのだ。しかも揺れる船の上で。すごい。
名前はアントン。
もう一人はかなり小柄で、アントンの肩にも届かない背だし、痩せているのに……アントンと対照的なほど、豪快な包丁捌きをする。
大きな魚も巨大包丁でバーン!と両断、でっかいフライパンを両手に持って軽々と調理。それを見たら、目がバグったかな?って思っちゃうんだよね。
彼の名前はニール。
私がウビの粉を持って船の調理室へ行ったら、そのアントンとニールは「ウビでおやつを作って欲しいんスか?」とやって来た。
「うん。まあ、おやつと言えばおやつなんだけど……」
「けど?」
「ちゃんと作れるかどうか分からない」
「ええ~、わからんのに、作るんスか?」
「でもね、人類は試行錯誤して、美味しいものを生み出してゆくものだから」
「確かに!」
二人は大きく頷いて、私の手伝いを申し出てくれた。
ていうか……最初っから二人をアテにしてたんだけど。
私は口だけの人間だもん。
お湯を用意し、そこにウビの粉と砂糖を少し入れる。いつものことだけど、適量が分からないので、お湯はひとまず粉の重さに対して半分くらい。
で、コネコネし(熱い!)、耳たぶくらいの柔らかさになったら……棒状に。
うん、粉とお湯の量は悪くなかったかも。
出来た棒を包丁で小さくカットして、丸めた。そしてそれを、鍋で20~30分茹でる。
ちなみに、この工程、私もアントンたちと一緒にやったからね?
「おー、透明になってきたっスよ」
ニールが目を丸くしながら、言う。
「ウビのこんな使い方、初めてだなぁ」
「宝石みたいっス~」
うふふ。今のところ、いい感じに進んでるぞ~。
興味津々な二人の横で、私はウキウキしながら甘めのミルクティーを作った。
茹で上がった玉ウビを水で冷やし―――最後にミルクティーに入れる。
「はい、出来上がり!」
「……なんか、知らない人が見たら泥水に魚の卵が入ってるって思いそうな飲み物っスねぇ」
「やだ、変なこと言わないでよ!」
渾身のタピオカドリンクなのに!ひどい!
……そう。
私は、前世で流行っていたタピオカドリンクを作ってみたのだ。
タピオカって、キャッサバというイモから出来ていると聞いてビックリした記憶があるんだよね。ウビがそれに似てるんだもん。
それと、前世の友達が「自分で作れば毎日飲める!」と言って、タピオカの粉からタピオカを作っていた。私も一緒に作って飲ませてもらったので、作り方は知っているのだ。
あの頃、私の住んでいた地域に、オシャレなタピオカドリンク屋さんがなくて残念だったけど……まさか、生まれ変わってそれが"良かった~"と思うなんて、不思議よねぇ。
―――ドキドキしながら、アントンたちと一緒に試飲する。
「ほう」
「ウビがモチモチしてて、面白い感触っスね!」
「もうちょっと、ウビが甘い方がいいかなぁ?」
「うん、そうかも知れないっス。あと玉も、もう少し小さくしてみますか」
「いや、大きくして、スプーンで食べる方が良くないか?」
ストローがないせいで、ウビ玉は最後にゴロゴロっと口に入る。
太いストロー、欲しい。あと、普通にカップに入れて飲んだけど、ガラスのコップで中が見える方がいいよねぇ。
でも。
とりあえず、前世のタピオカドリンクに似たものが作れるって分かったのは大収穫!
これ、カフェメニューに加えられるかなぁ?
―――その後、アントンたちと試作しまくり。
おかげで夕飯は食べれませんでした……。タピオカって、お腹膨れるね……。




