ご馳走は、人それぞれ?
その日は、コベのいる島で宿泊することになった。
1日で一周できるくらい小さな島なので、島民はそんなにいない。泊まるのも小屋みたいなところだ。というか、床と、葉っぱ葺きの屋根しかないので、小屋と言っていいのかも分からない。
壁……無いんだね……?
ちょっとビックリした。
でも、どの家もそんな感じなので、この島ではこれが普通らしい……ただ、なんか落ち着かないけど。
ちなみに壁の代わり(?)に、虫除けとして薄い紗の布が周囲に張られた。これは異国との交易品で、結構、高価なものということだった。なので、島長の家以外は使っていない。
「でも、このセランガ草の葉の汁を塗っておくと、虫は近寄らないのです。他に、ワンギという花を乾燥させたものを燃やし、灰を撒くのも効果的ですから」
私が布を見ていたら、通訳のタウさんがニコニコと教えてくれた。
タウさんは、50代くらいのおじさんだ。真っ黒に日焼けしている。
この島ではなく、少し離れたところにあるもうちょっと大きな島の出身らしい。
この辺りはたくさんの島があって、それぞれに独立した文化と風習を持つが、言葉は大きく違わないそうだ。そして他の大きな国と渡り合うため、島からそれぞれ選出された代表が政治を行う共和制国家の形を取っている。
「この島は危険な獣はいないし、毒を持つ虫もいませんからね。それはすべて、コベのおかげだと言われているのです。だから、島人はコベをとても大事にしていますよ」
「タウさんの島は、毒を持つ虫がいるの?」
「いますよ!セランガ草の汁だけでは防げないので、森へ入るときは、海にいるムレキットという生き物の粘液を塗ります」
えええ、粘液ぃ?それは……気持ち悪そう……。
夕食は、海の幸いっぱいだった。
そして新鮮だからだろうか、刺身(?)も並んでいる。刺身というか、カルパッチョみたいなやつだ。
リックたちは「生?!」と仰天し、気味悪そうだ。
ブライト王国は、生で魚を食べる習慣はないもんねぇ。リーバルでも無かったし。いや、"刺身"は無いと言われたけど、もしかすると、こんなカルパッチョ風のはあったのかなぁ?
私は前世で特に生魚(刺身)が好きでもなかったのだけれど。別に嫌いでもなかったので、貴重な機会を逃さなず遠慮なくいただく。
ほほーう。柑橘系のドレッシング(?)で和えてあるので、サッパリしてて美味し~い!
いやん、これ、大好きかも!
ていうか、ドレッシングのレシピを教えて欲しい!
「お、お嬢、すげーな。ためらいなく食べたな……」
「美味しいよ、リック。試しに一口、食べてみて」
「……むぐ。なんか、むにゅと気持ち悪い……」
私のあと、すぐに手を出したテッドが眉間に皺を寄せて言う。リックはそれを聞いて、伸ばしかけた手を止める。
ええ?気持ち悪いんだ……?
食感が、ってことかな……?
その横では、ライアン兄さまとサフィーヤ姉さまが顔を寄せ合って食べるかどうか相談してる。
むー。
食って、生まれ育った環境の影響を大きく受けるもんだからなー。生の魚は美味しく見えなくても仕方ないのかな。
そうそう。
不思議だけど、私は、前世と育った環境が違って舌の感覚が変わったのか、刺身が前より美味しく感じる。
これ、いくらでも食べれそう。
私がパクパクと魚を食べるので、島長がニコニコと新しい皿を出してきた。
タウさんが「おお!これは、この辺りの島のご馳走です!」と手を叩く。
わぁ、なになに?
わくわくして皿を覗き込んだら……悲鳴を上げそうになった。
「きゃう、ぐっ……」
上げかけた悲鳴を飲み込んだので、変な声になる。
慌てて口を押さえた私のことを、驚いて感動しているように思ったのだろうか?
島長はますます満面の笑みになって、「さあ、これも食べて食べて!」というように身振り手振りをした。
ど、ど、どうしよう……!
だって……だって皿の中身……でっかい芋虫だったんだよ……生じゃなく揚げてあるけど、これはちょっとムリぃ……!
―――いや、でも、これも食の文化の違いだ。
食べもせずに、断るなんて失礼だ。
島長もタウさんも、めっちゃ笑顔だよ、イヤだなんて言えないよ……!
うう、自分の国のご馳走を怖がられたら悲しいよね。前世でタコ焼きは好きだったけど、外国の人でタコは悪魔の生き物だと嫌がって食べない人がいると聞いたときは、(えええ~)って思ったもん。
よし。
私は、決死の思いで芋虫に手を伸ばした。
―――芋虫、結構クリーミーで美味でした。
やっぱなんでも、食べてみないと、分からないものねぇ。
ただリックとメアリーには、ドン引かれたけれど。
ちなみに、お祖父さまとバートは普通に食べたし、私に続いてテッドも食べていた。
そして驚いたことに、サフィーヤ姉さまも食べちゃって……おかげでライアン兄さまも涙目になりつつ食べることとなった。
で、その様子を見ていたお祖母さまも、落ち着いた様子で手を伸ばしたものの……芋虫を取る瞬間、ちょっとだけ口元が引きつったのを見てしまった。
ただ、すぐに普通に戻って優雅に食べ、「美味しゅうございました」とにこやかに言っていたけどね。
は~、これ、一生の思い出だわ~。
最近、食糧問題の解決策として昆虫食が脚光を浴びてきていますが……私はまだ食べたことがないですー…




