帝国を出立
本当ならもう少し長くライヒトゥム帝国に滞在するはずだったんだけど、アシャム国で予定より日にちを使ってしまったため、ラオムツァイト村から戻ってきて3日後には帝都を発つことになった。
早く帰らないと、春華祭に間に合わない。春華祭は人手がいるので、お祖父さまやライアン兄さまも手伝わないと大変なのだ。
「僕らもいつか、ブライト王国へ行くよ。そのときはぜひ、カールトン商会にも行くからね!」
別れ際、リートが目をキラキラさせながら約束してくれた。フロヴィンとマークがたくさんのお土産を渡してくれる。持ち切れない。
そして最後にアルが、すごく名残惜しそうに抱き締めてくれた。
「もう少ししたら、帰るから」
「うん」
……アル、いくらフリでも―――密着しすぎだよぉ。後ろのお祖父さまが怖い顔になってるじゃん。
アルたちとは帝都でお別れなので、帝都のカールトン商会の前で最後の挨拶をしているのだけど。
商会の従業員たちも見送りに集まっているので、なんていうか、視線集中がすごい。店の周りからも視線を感じる。
今、帝都では私とアルとベルティルデ皇女の話題ですっかり大盛り上がりだ。まだ子供なのにさ……こんな三角関係で噂の中心人物になるのは、ちょっと、恥ずかしいよ。
まあ、私はここで帰るからいいけど?
「アルフレッド殿下、情熱的」
馬車から身を乗り出して見送るアルたちに手を振り、見えなくなってから席にちゃんと座ったら、サフィーヤ姉さまが珍しくニコニコしていた。
馬車の中は、私・サフィーヤ姉さま・メアリーの3人だ。
「うーん……でもあれは、ベルティルデさまへの牽制だから」
「ふふ、ホントにソウなの?殿下はすごくアリッサさま大切にシテるみたいに見えタ。ワタシ、オウエンする」
うう。
サフィーヤ姉さまに応援されてしまった……。
でも、実際のところ、アルの中で私の位置はどこにあるんだろう?
以前からときどき、友達以上な感じを何度も受けていた。フリなんて言ってるけど、もしかして、結構、本気だったりしない?少なくとも好意のない相手に、あんな風に出来るものかな?
ということで、私、アルから異性として好意を向けられてるって、自惚れてもいいのかしらん。
ていうか。
もし、あれで恋愛的な気持ちが完全にゼロって言うなら……それもそれでヤバイと思う。まさに天然のタラシ男だよ、傾国の美男だよ。そのまま成長して、あちこちの女の子にあんなことしてたら……血みどろな女の戦いが起きちゃうじゃん!
留学から帰ってきたら、女の子を誤解させるような行動について、一度、アルに注意しておかなくちゃ。
……ん?
そんなことしたら、「他のコにしちゃイヤだからね!」ていう風に取られちゃう?
私もアルが好きみたい?
あああ、もう!
なんかイヤだ、頭の中がこんがらかってきちゃったぁ!
だってさ、だってさ……アルが17、18才だったら、私だって、もっと真剣に考えられるのよ。でも今は、正直、よく分からないんだもん……こういうとき、前世の記憶がなかったらってつくづく思う。それなら、きっと変に年上目線でなくアルを見れただろうから。
そしたら……好きになってるかな。
なっていそうな……気もする……。
優しいし、カッコいいもんね、アル。
だけど前世の記憶がなかったら、こんな風に仲良くはならなかったかも知れない。
最初の出会いのときに、私はアルを「澄ましてて、つまんない王子」と思っただろうし、アルだって「生意気な令嬢だ」と相手にしてくれなかっただろうから。
人生って、分からないものだよねー……。
港に着き、船へ。
行きとは違うルートで帰るらしい。
サフィーヤ姉さまの国はだいぶ南の方なので、本来のブライト王国と帝国を結ぶルートからはかなり外れていたそうだ。
なお、せっかくだからと、バートが人に害のない、大きくて珍しい魔獣がいる島とか、不思議な花がたくさん咲いている島に寄りましょうと提案してくれた。
きゃあ、楽しみ!
ただし、ほんのちょっと寄港するだけで長居はしないぞと、お祖父さまからくどいほど念を押された。
うんうん、分かってる、分かってる!
アリッサ、前世と今世を含めるともう20代後半なのに、まだ高校生の感覚……。




