四龍の務め
ラオムツァイト村から帝都へ戻った夜、お祖父さまとお祖母さまにイーザさんから聞いた話を打ち明ける。
といっても、世界が他に5つもあるとか、そういう話ではなく……
「え?アリッサ、あなた、全属性の魔法を使えるの?!しかも、今、全属性の魔法が使えるのはあなただけですって?!」
「いつから、全属性の魔法が使えるようになったのだ?!生まれたときに測った結果は、風と火だけだったぞ?!」
あれ?
全属性が使えるって話、お祖父さまたちには言ってなかったっけ?
慌てて記憶を遡る。
んー……そういえば、ウォーレンさんしか知らない、かも?
私が考え込んでいたら、お祖母さまが深い溜め息をついた。
「この件は、マックスも知らないのね?帰ったら、すぐに知らせなくちゃ」
「えと……あの、ごめんなさい……」
身を縮めて謝ったら、お祖父さまが優しく抱き締めてくれた。
「謝ることではない。アリッサも、自身が望んだ訳でもなく、突然、天恵者としての知識を得たのだろう?それはどうしようもないことだ」
そして私を離し、膝を折って私と目線を合わせる。
どうしようもないことだと言いつつも、お祖父さまは、今までになく真剣で厳しい眼差しだった。
「しかし。―――大きな力を持つ者は、それに見合う責任も持つ。ブライト王国の四龍は、その昔、己が力を国を護るために使うと誓い合った。お前もその一員だ。自分の私利私欲に使わず、国のために使わねばならん。良いな?」
「はい」
「それにしても……膨大な魔力と、全属性の魔法か。図らずもその二つを持ち合わせたということは……いずれ、その力を使わねばならぬ未来があるということかも知れん。領へ帰ったら、今までとは違う魔法の訓練をせねばならんな」
んんん?
力を使わなければならない未来?
それはちょっと、大変な事態かも知れないから、そんな未来は来ないで欲しいなぁ。
私がほんの少し、渋い顔になったからだろう、お祖父さまは小さく溜め息をついて、頭を撫でてくれた。
「四龍は代々、魔力の一番高い者が跡を継いできた。それでも、もはや初代火龍の足元には及ばん。初代は、春華祭の儀式を短時間で一人で行っていたそうだ」
「えっ、あの大きな魔法陣の前で祈るやつ?」
「そうだ。あれは魔物を遠ざけ、春を呼ぶ古い魔法だ。火龍家は王国南部を受け持っている。今はもう、魔法陣に初期の頃ほど強力な力はないようだが……」
ひえええ。
つまり、最初の、超強力な魔法陣を初代さまはたった一人で作動させていたの?
そりゃ、別次元の魔力量だわ……。
「昔は強力な魔物も多かったから、それくらい強くなければ、国を護ることは出来んかったのだろうな。……今は、そこまで必要はない。ないが、強い魔物がまったくいない訳ではないからなぁ。もしもの可能性を考え、それに備えるのも四龍の務めだ」
「はい」
うん、そうだよね。
海の魔物、強かったもん。
慎重に頷いたら、急にお祖父さまに抱き締められた。
「しかし!しかし、アリッサを戦いの場へ出すなど……儂には耐えられん!!」
ぎゅうぎゅう。
うう、息苦しい……!潰れる~。
―――でも、ありがと、お祖父さま。お祖父さまの愛が、私はすごく嬉しい。
その愛があるから。
四龍の一員として、私も"もしも"の未来にちゃんと備えるよ!
そのあと、お祖父さまか落ち着いてから。
私が全属性の魔法を使える件は、アルは知らないけれどウォーレンさんは知っていること、私の命が狙われている件について、イーザさんには分からないと言われたことなどを伝えた。
お祖父さまもお祖母さまも、今回のことはお父さまには必ず話すこと、だけど他の人には言わないこと!などをこんこんと説いた。
はい。
了解しました!




