この世界のこと、他の世界のこと
気になるところで終わったまま、一週お休みしてすみません…!
「イーザさんも渡り者―――つまり、前世の記憶があるんですか?私は、えーと、地球という星の日本というところで生まれ育った記憶があるんですけど」
渋ってなかなか部屋を出ないお祖父さまがなんとか退出してくれて―――私はイーザさんと2人っきりになるなり、質問を口にした。
もし、彼女が私と同じ日本からの転生者なら……前世に未練はないとはいえ、やっぱり、ちょっとうれしい。転生者あるあるというか、他の人とは出来ない前世の話をいろいろしてみたい。
だけれど、イーザさんはゆるりと首を振った。
「いいえ、違います。私は3代皇帝リカードさまに拾われ、仕えました。以来、たくさんの渡り者の方と会い、話をしているので……異界のことをよく知っているだけです」
「そうなんですか……。え?3代皇帝?」
あれ?
それって何年前の話?めっちゃ昔じゃないの?400年とか500年とか……。
私がビックリしてフリーズしたら、イーザさんは服の左袖をめくった。
現れた腕には、びっしりと紋様が描かれている。
「全身に描かれております。これは、今はもう喪われた古い異界の魔法で……おかげで私の生命は細く長く伸ばされているのですよ」
「古い、異界の魔法……?」
「はい。すべてはもう一度、あの方と会うために」
イーザさんは袖を元に戻して、遠くを見つめた。そして、独り言のように話を続ける。
「私は、現在、ほとんどの時を眠りの中で過ごしています。数年に数日だけ目覚め、そのときに村や国、異界の情勢を知るのです。本来、私が目覚めるのはまだ先のはずでした。しかし……」
イーザさんの不思議な瞳が私に向く。
魂の奥まで見透かされるそうなその視線に、一瞬、目眩がする。
「予定よりも早く目覚めた。何故なのか分かりませんでしたが……どうやら、あなたが原因のようですね」
……うーん、話がさっぱり見えない。
私が原因って、何?
さっき、特別な扉を開けたとか言ってたことと関係ある?
気になることはどんどん聞いていきたいのだけど、イーザさんは独特の雰囲気があって、なんだか口を挟みにくい。
両手を合わせてもじもじしていたら、イーザさんはフッと小さく笑った。
「いろいろと私に聞きたいことがあることでしょう。しかしながら神でもない私は、すべてを知っている訳ではないのです。様々な事象からただ推測をするだけ。……とはいえ、あなたの運命の力に起こされましたので、私が知っていることを少し、お伝えしますね。私はきっとそのために目覚めたのでしょうから」
「はい……あの、よろしくお願いします……」
よ、良かった。少し教えてくれるのね。
イーザさんが転生者じゃないのは残念だけど、そもそも、私は渡り者―――転生について知りたくて、帝国まで来たのだ。ぜひ、教えて欲しい。
この村は他から隔離されているし、もしかすると他国人には詳しいことを教えてくれないんじゃないかと心配したけど、大丈夫、かな?
さて、イーザさんの話を簡単にまとめると―――世界、つまり異世界は、今、わたしのいるこの世界の他に、少なくとも5つ、存在しているそうだ。
これら6つの世界を、人の魂は巡っている模様。
いわゆる、輪廻転生ってやつかな?
人は1つの世界ではなく、6つの世界をランダムに生まれ変わっている、というワケ。
で、前世の記憶は、たぶん死んだときにリセットされるようだ。稀にリセットされず、次の生へ引き継ぐ人もいるみたいだけど。
そして私のように途中で急に思い出すタイプは、前世の死の瞬間、魂に傷がついたせいではないかという。傷のせいでリセットが完全に行われず、記憶の奥底で残ったままとなり、何かの切っ掛けで呼び覚まされる、と。
なので、記憶に欠落のあることが多い。
私が前世の名前を思い出せないのは、つまりは中途半端なリセットのせいだ。ということは、他にも欠落している記憶もあるのだろう。
ふうん、なるほどねー……。
ブライト王国で前にウォーレンさんから天恵者の話を聞いたときに、この世界と前世の日本、そしてそれとは違う別の異世界もありそうだとは思っていたけれど……6つもあるのかぁ。
結構たくさんあるんだと驚いたけれど、イーザさんによると、古代にはもっとたくさん世界があった可能性が高いらしい。
「そもそも今も……6つ世界があると言いましたが、そのうちの1つは滅びかけています」
「えっ、滅びかけているんですか?!」
てことは、いつか、全部の世界がなくなってしまう未来もあるのかも?!
なんだか怖い話にぶるっと震える。
イーザさんは悲しそうな顔で頷いた。
「私に延命の魔法を掛けてくれた方が元いた世界は、非常に高度な魔法の発達した世界でした。しかし、大魔戦争で壊滅的な破壊が行われ、一切の魔法の知識は失われました。今は残った僅かな人々が獣のような生活をしているようです」
「どうして……そんなことが分かるんですか?」
「渡り者の方々の話を繋げていくと、朧げながらも異界の様子が分かるのです。大魔戦争のときに亡くなった記憶を持つ方が、一時期、何人も出現しました。その後、その世界の記憶を持つ方が現れることはなく、厳しい荒野で生きた記憶を持つ方が現れるようになったのです」
へえ……。
ああ、そうか。イーザさんは長く生きているから、転生者の話を繋げていって、異世界の歴史を知るんだね。
すごいなぁ。
なお6つの世界は、ほぼ同じ時間の流れ方をしているらしい。
イーザさんは一息ついて、置いてあったお茶に手を伸ばし飲んだ。それから、再び私をあの不思議な瞳でじっと見た。
活動報告の方に、お休みの言い訳と、ブクマ3000超え記念SSを上げています。