帝国に転生じゃなくて良かった~
フロヴィンのお家は、生活雑貨を扱う商会らしい。メインはキッチン用品。
でも、キッチン用品以外も多くて、いろいろと見たことのない雑貨が並んでおり、すごく興味深かった。
私たちが来るのを店で待っていたフロヴィンは、にこにこと店の由緒を教えてくれる。
「ご先祖さまは、元々は武器を作っていたそうなんだ。でも、あるとき、人を殺めるものを作るのはもうイヤだと思って、そこから包丁を作り始めたんだとか。そうしたら、切れ味がいいから評判になって、ついでにあれこれ調理用品も一緒に売るようになり……いつの間にか、こんなに大きくなったんだって」
へえ。
きっと腕のいい職人さんだったんだろうなぁ。
ちなみにフロヴィンの一族は、7才のときに包丁や鋏といった刃物を作るか、商売に携わるか、決める慣わしらしい。
「小さいときに決めて、あとで変えることも出来るの?」
「ううん、ダメだね」
「えっっっ、7才で一生の仕事を決めるって難しくない?」
「難しいよ。だから、物心つく前から親はどっちに適性があるか必死になって見ている。僕らも、早くからいろいろと手伝って、すごく考えるんだ」
ひゃあ、どうしてそんな変な慣わしなんだろ。不思議~。
「何か気になるもの、ある?」
アルが聞いてくる。
「気になるっていうか、使い方の分からない道具がいっぱいだね」
「うん。……そういえば、帝国では万年筆があるのに、筆でも字を書く人がいるんだよ。絵筆とは別なんだ。筆で字を書くなんて初めてだから、僕は全然、上手く書けなかった」
へえ!帝国にはお習字の文化があるのかな?やっぱり転生者の影響?
私も、前世で習字は下手だったなぁ……。
そんな風にしゃべりながら店内を回っていると、ふと、アルが「そうだ!」と思い出したように言って、私を店の一角へ引っ張った。
そこにあったのは―――
「わぁ、キレイな箱!」
寄木細工というんだろうか?色の違う木片を組み合わせた可愛い小箱だ。
「これをアリッサにプレゼントするよ。でも、開け方、分かるかな?」
んん?
どういう意味?
蓋を開けようとして……全然、動かないことに気付いた。
「え、これ、開くの?」
「開くよ。からくり箱とか、秘密箱って言うらしい」
あー……なんか、前世でそんな箱のことを聞いたことある……。これも、転生者の人が伝えたもの?
帝国、すごい。
私、もし帝国に生まれてたら、全然前世チート出来なかったかも!特殊な技術や知識、ちっとも持ってないよ……!
「……この箱、どこかを押して、順番に動かさないと開かないんだよね?」
なんとなく悔しい気分になって、箱をあちこち押してみる。アルが感心したように目を丸くした。
「へえ、すごいな。アリッサは仕組みがもう分かった?」
「分かんない。アルは開けられる?」
「うん。フロヴィンに教えてもらったよ。貸して」
アルに渡したら、手際よく開けてくれた。
……ひゃあ、手順難しい、覚えられないよう。アル、よく覚えたなぁ。
でも、ちゃんと開け方解説が付いていたので、その箱をアルからプレゼントしてもらうことになった。
私たちの様子を見守る店員さんたちの微笑ましい視線が……恥ずかしい……。アルったら、さらに可愛い髪飾りも買って、中に入れて渡してくれるんだもの。
ラブラブアピール作戦、本当にやりすぎ!
ところで、せっかくだから帝国の包丁をシェフのジョンに買って帰ろうかと思って、フロヴィンにお勧めを聞いてみた。
「そうだね。塊肉を切るなら、こっち。魚を卸すならこれがオススメ。この包丁は皮むきにいいよ」
「うーん……」
肉を切る包丁は、ブライト王国で似たようなのがあった気が……。あっちの魚を卸す包丁は、見たことないから、これがいいかな?
それにしても、刃物の種類が多い。
「この変わった形のナイフは何に使うの?」
「カルカという硬い実があって、それを剥く用なんだ。こっちの鋏は、ファータの莢を割るためのもので……」
むむむ。さっぱり分からない。
どんな実で、どんな味なんだろう。市場にも行ってみたくなっちゃった。
アルも横から覗き込みながら、首を傾げる。
「そんな限定用途だったら、なかなか買う人はいないんじゃないか?」
「うん、そうなんだよね……。まあ、食堂をやってる人や、貴族の屋敷で働くシェフは大量に剥くから買っていくけど。でも、カルカは好きな人も多いから、一般家庭でも需要はあるはずなんだけどなぁ」
「実演販売、やってみたらいいのに」
「え?何だい、それ?」
すると、アルが急に後ろから私の口を塞いだ。
「もご……」
「アリッサ。不用意なことを言っちゃ駄目だ」
「エディ!僕ら、友達だよね?」
一方、フロヴィンの目がキランと光る。
……あちゃー。もしかして前世の知識は披露しちゃ、ダメだった?でも、実演販売なんて大した情報でもないし。
私はアルの手を外して、フロヴィンの手にあるナイフを取った。
「店の前で、これはこんな風に使います~って実際に野菜や果物を切るの。使い方が分かって、便利だと思えばみんな買うんじゃないかな。使ったことない高価なものは、商品名だけじゃ、なかなか手は出ないよ」
「なるほど……」
フロヴィンが真剣に頷く。
アルからは、「もう、アリッサは……」というように肩をすくめられてしまった。
でもね。
「だって、うちの商会ではもうやってることだし。別に隠すほどのことじゃないでしょ」
カールトン商会は他にも試食をやってるし、新しい万年筆の試し書きも出来る。そのうち、ブライト王国ではそういう販売スタイルがスタンダードになっていくと思うんだよね。
私がそう言ったら、フロヴィンはにこにこして、私の手を握った。
「でも、そういう販売方法は帝国ではまだ試されていない。さっそく、やってみるよ!ありがとう、アリッサさま」
「いえいえ、どういたしまして!その代わり……アルをよろしくね」
あの皇女さま、しつこそうだもん。
「もちろん!」
フロヴィンは力強く請け合ってくれた。
うん、アルを守ってくれるなら、こんな情報、安いって!
ごめんなさい、来週はお休みします
GW、特に予定はないんですけどね~




