帝国の港で待っていたのは
さて、アシャム国を出、港町までの旅はとても順調なものだった。行きとは大違いだ。
そして砂漠での一夜では、私はサフィーヤ義姉さまと二人だけで寝させてもらった。眠りにつくまでの間、義姉さまからアシャム国での厳しい生活をちょっとだけ教えてもらった。
―――義姉さまのお母さまは、砂漠の海沿いの国の姫だったそうだ。
アシャム国と国交を結ぶ目的で輿入れをしたものの、輿入れして3年後にその海沿いの国は他国の侵攻を受けて滅んでしまう。
アシャム国で、亡国の姫に価値はない。なので、ちょうどその年に生まれたサフィーヤ義姉さまともども、お母さまと離宮の端っこに追いやられ、ずっと身を縮めて生きていたそうだ。
やがて……お母さまがお亡くなりになる。そのとき、ファラ姫が「このままこの国にいても、あなたに未来はないわ」と言ってこっそりといろいろ手配をしてくれて、ブライト王国へ留学することになったらしい。
そうかぁ、サフィーヤ義姉さま、大変だったんだね……。
それから。
海沿いの国の人とアシャム国の人は肌の色の濃さが違うんだって。
私にはそんなに違うとは感じなかったんだけれど、アシャム国ではサフィーヤ義姉さまは色黒で不美人とみられているらしい。国王からは、"女の価値はない"とまで言われたって。
うわぁ。娘だよ?
肌の色とか、容姿とか、そんなので娘を測るの?
本っ当に最低な王さまだわ!
てゆーか、サフィーヤ義姉さまはどれだけ厳しい目で見ても、すっごく美人だからね!!
アシャム国のあと、別の国にも少し寄る予定だったみたいだけど、アシャム国で予定より長く滞在したため―――他へは寄港せずに帝国へと向かうことになった。
とうとう、ライヒトゥム帝国!
どんな国だろう?ワクワクするなぁ。
それとアルに会う時間は取れるかな?帝国へ行くよと手紙は出したけれど、いつ行くかは未定だったし、旅に出てからは手紙も出してない。
いきなりで、会えるものかな……?
帝国の港は、すごく大きくて立派だった。
特に最初に目につくのが、かなりの大きさの赤い灯台だ。通称、赤灯台。
その赤灯台が木造だと聞いて驚いた。
あんな大きな木造建築物を建てる技術が帝国にはあるのね。
ちなみに海辺で木造の建物は腐りやすいため、特別な赤い鉱石を元にした塗料を塗っているそうだ。派手だなーと思ったけれど、別に灯台そのものを目立たせるために赤くしているワケではないらしい。
そもそも、夜に赤だと目立たないのだとか。
「それよりも、あの灯台の明かりはかなり遠くまで届くことで有名ですよ。とても特殊な魔術式灯火と水晶鏡を使っているそうです」
バートがそばを通るときに、そう教えてくれる。
どんなに激しい嵐でもこの灯台の明かりは見えるため、船乗りたちには"嵐の星"と呼ばれているらしい。嵐の最中、この明かりが見えたら「帝国の港はすぐだ、助かった……!」と皆が胸を撫で下ろすのだと。
―――港の中は、大きな船でいっぱいだった。そして海沿いに並ぶ建物は、全部三階建てだ。
リーバルのようにカラフルではなく、白と黒でで統一されているので……なんか、すごい。ちょっと怖い感じもするかも!
近くで見てみると、どの建物も灯台と同じく木造のようだ。
でも、前世の日本を思い出すような和風建築とは違う。どちらかというと、スイスとか、そんな感じ……かな?私はスイスに行ったことがないから、勝手なイメージなんだけど。
なお木造部分が黒いのは、やはり、腐食を防ぐ効果のある塗料を塗っているから、らしい。
埠頭には、ライリー叔父さまの姿が見えた。叔父さまのそばには、数人のフードを被った小柄な人物がいる。
誰だろう?
従兄弟はもうちょっと小さいはず……。
お祖父さまとバートが一番に降り、叔父さまに挨拶をしに行く。私は仲良くなった船員さんたちと少し話をしていたので(港町のオススメ屋台を教えてもらった!)、最後に船を降りる。
降りた途端……
「アリッサ!」
大きく私を呼ぶ声がして、駆け寄ってきた人物に抱き締められた。
えっ?!
「会いたかったよ、アリッサ」
「……アル?!」
叔父さまの横にいたフードを被った一人。
それが―――アルだ。
ちょっと会わない間にまた背の伸びたアルが、ビックリするほどの笑顔で私を……えっ、あれっ、わ、私を抱き締めてるぅ?!
な、な、なんでっ?!
ものすっっっごい衝撃に硬直していたら、アルが小さく耳元で囁いた。
「アリッサ、ごめん!あとで説明する、僕に合わせて」
あ。
そ、そうなんだ?
何か理由があるのね。分かった、合わせる。
……って、何を?!
一週お休みしました、すみません。本日より再会。前章のアルフレッド視点のときから書きたかったエピソードが、ようやく書けます……!




