旅は初めての体験がいろいろ
一面砂だらけの砂漠を想像していたけど、旅路はずっとゴツゴツとした岩や石だらけの赤茶けた大地だった。
ぶーぶー!
ぜんっぜん、気分がアガらない。
私は、どこまでも続く砂の山を見たかったのにぃ。ていうか、海もそうだけど……さすがに同じ風景が延々と続くのって飽きるね。
飛行機や新幹線でビューンと遠くまで行けた前世は、ホント、素晴らしい。
こんな岩砂漠、一時間も歩いたらもう充分だよ。めちゃくちゃ暑いし、ルダは結構揺れるしさー。
ちなみに暑いと言ってるけど……私やお祖母さまは、空気を冷やす魔石首飾りをぶら下げている。だから、実のところマントの下はそんなに暑くない。
ただしこれは、使い捨ての高価な首飾りなため従者はつけられず……メアリーが暑さバテしているのを見てものすごく申し訳ない気持ちだった。現地で雇った荷物運びの人たちなんか、徒歩だしね。
でもね……乾燥している暑い空気の中では、呼吸も辛いのよ……。ノドがヒリヒリする。
口元を覆っていても、もっとひんやりした空気を吸いたい。
なんていうか、常に酸欠な気分。顔も、乾燥のせいかパリパリだし。
あ~あ、商人になって世界中を旅する夢、どんどん萎んでいく~……。
船の旅だって何日も続くとやることないし、馬車もルダも揺れが疲れるし。
アナベル姉さま。長旅はイヤだと言った姉さまは正解です。
長旅って……そんなに面白いものじゃないね……。
岩砂漠でも、昼と夜の寒暖差はスゴい。
なので夜は、お祖父さまとお祖母さまに挟まれて寝ることになった。
というか……ビックリしたことに、テントを張っての野宿だ。本当はこっちは正規ルートじゃなく、本来のルートで行けばオアシスのそばの小さな町で泊まれるらしい。
だけど、港に着いたとき、うちの一行はあまり良くない人たちの注目を集めていた、そうで。
そうで、というのは、私は全然気付かなかったからだ。
到着した夜のうちにバートが荷物を半分ほど持って派手に出発したのも、私は知らなかった。そっちで、良くない人たちの注意を引き、私たちは目立たないように行く計画だという。
バート、大丈夫かなぁ。
テッドもバートの隊に入れられていたので、心配……。お祖父さまは全然問題ないって言うけれど。
そんな大変な状況ではあるものの。
お祖父さまやお祖母さまと初めて一緒に寝るのは、ちょっと嬉しかったりもする。しかもこんなに密着……!
ちなみに、ライアン兄さまも「一緒に寝るか?」とお祖父さまが誘ったけれど、「イヤ」と即答だった。
兄さまも一緒だったら、もっと良かったな。
……私が2人に挟まれてニマニマしていたら、お祖母さまが頭を撫でて笑った。
「楽しそうね、アリッサ」
「だって、お祖母さまとお祖父さまとこんな風に寝るって初めてだから」
「そういえばそうね……。でもオーガストは、あなたが生まれたばかりの頃、こっそり自分のベッドへ連れて行こうとして、何度もコーデリアに怒られていたのよ」
へえ!お母さまがお祖父さまを怒ったの?!
お祖父さまが憮然とした顔になる。
「そうそう、そんなこともあったな。コーデリアめ……遠慮なく儂を叩きおって。儂がアリッサを圧し潰すと言うんじゃ」
「本当のことでしょう!あなたったら、起きていても力加減がちゃんと出来ないのに、一緒に寝るなんて心配に決まっています!」
ぷぷ。私の命は、お母さまに守られたんだね。
「アリッサは、こんな風にテントで寝るのは平気?大丈夫?」
「うん、全然平気です。お祖母さまはイヤ?」
「いいえ、わたくしも初めてだから楽しい気持ちの方が大きいわね。あなたも一緒だし」
そして、お祖母さまはそっと私の耳に口を寄せ、小さく囁いた。
「昔、オーガストの冒険譚を聞いて、わたくしも一度は野宿をしてみたいと思っていたの。でもオーガストには内緒よ。また行こうって言われても困りますからね」
「ふふ」
「ふふ」
2人で笑ってたら、お祖父さまのムッとした声がした。
「儂だけ仲間外れにするな」
「女同士の秘密の話よ、あなた」
むむむ、と悔しそうにお祖父さまが呻いた。
翌朝。
テント泊は決して寝心地良くなかったものの、私は爆睡、一行の中で一番最後に起きた。
お祖母さまはそんなに眠れなかったようだ。
「若いっていいわね……」
だって。
えへ。
従者たちも当番制で見張りをしていたらしく、眠そうな顔の者が数人いる。お祖父さまいわく、この辺りは盗賊だけではくたまに魔物も出るから注意が必要なんだとか。
「どんな魔物が出るんですか?」
「まあ、小物ばかりらしいから、大したことはないな。ただ、毒を持っているものが多いから、気をつけねばならんそうだ」
へえ!こんな岩山砂漠じゃ、魔物もエサがなくて海のような大きな魔物は出ないらしい。
そうか……。やっぱ魔物も食べないと大きくならないんだよね……?
ちなみに、お祖父さまもこの辺りまで来たことはないので、魔物の件は現地ガイドの情報だ。
夕方には、アシャム国に着いた。
その手前でバートと合流する。バートはいつもと変わらぬ笑顔だったけれど……その外套には返り血らしきものが付いている。
バートの後ろにいたテッドの外套も、血の痕があった。
「テッド……襲われた、の……?」
「ん?まあ、ちょっと」
言葉少なに答えて、テッドはすぐリックと2人で話を始めてしまった。
もう!心配しているのに。
他の人からなんとか話を聞き出したところによると、やはり道中、盗賊に襲われたらしい。相手は30人以上いたんだとか!
しっかり撃退して、テッドも活躍したとの話だった。
そっか。とにかくみんな無事で良かった……。
でも……たぶん、初めてテッドは人を相手に戦ったよね……?
いつも朗らかなテッドが難しい顔になっていて……ちょっと、心配。前世の日本だって100%安全な国だったワケじゃない。だけど、30人以上の盗賊に襲われるとか、そんなことは無い国だったから…この世界の旅は本当に大変なんだってすごく実感する……。




