海の次は砂漠へ
海の魔物遭遇という思いがけない体験をしたけれど、バートいわく、冬は魔物が出やすいとはいえ、こんなに襲われるのは滅多にないことだと言う話だった。
特にこの船の底にはかなり高度な魔物除けの魔法陣が描かれていて、普段は魔物に気付かれないらしい。
「今年は、異常魔障の年かも知れませんね」
だって。
何年かごとにそんな年があり、そのときは深い海の底にいる魔物が海面近くを泳いでいるため、船は見つかりやすくなるのだとか。
ふうん、異常気象みたいに、魔物異常発生の年とかがあるのか……。怖~っ。
リーバル近郊は特に例年と変わらない出現率で漁業に影響はないけれど、この海域を通る貿易の方には影響が出そうだとバートはお祖父さまと話していた。
そうそう!
お祖父さまの槍が何もない空中から出てきた件について。
あれは亜空間(?)に槍を収納しているんじゃなく、お祖父さまの船室に置いてあった槍を引き寄せただけだと教えてもらった。槍の柄の部分と、お祖父さまの指輪は魔法陣で繋いであり、簡単な呪文で手元へ来るようになっているらしい。槍が遠いところにあると引き寄せることは難しく、大体、半径20~30メートル内でしか使えないとか。
なーんだ。
じゃあ、家に武器を置いてて、出掛けた先で何かあっても使えないってことかぁ。
あんまり実用的じゃないやと思ったけれど。
バートによると、船ではこういう魔法が有り難いらしい。
バートもお祖父さまと同じ魔法陣を剣に使っており、おかげで対魔物用の普通より大きくて長い剣を常に持ち歩かずに済んでいると笑った。船に乗っているときの通常装備は、腰の短剣だけ。あとは、船長室に置いているとのこと。
なるほどね……船みたいな狭い空間だと、大きな武器を持って廊下を歩くだけでも、ぶつかって大変。確かに、船には必要な魔法なのかも!
ちなみにお祖父さまは。
「この魔法陣は必須じゃ。なにせ槍を投げても手元に戻せるからなぁ!」
だって。
バートがそれを聞いて、苦笑する。
「でも、昔、海の魔物に投げて、そのまま戻ってこなかったものが何本もあるじゃないですか」
「あれは、せっかく刺したのに、あやつらがあっという間に深海へ潜ってしまうから仕方がなかろう。一応、今回の旅では5本、持ってきた。出来れば10本は持ってきたかったが、家令に止められてな」
「いったい何本、投げるおつもりですか!」
ハハハとバートは肩を揺らす。
えええ?
お祖父さまの槍って特注品でしょ。そんな何本も投げて、魔物にプレゼントするようなもんじゃないよ?もったいない。
ていうか、基本的に魔物は出ない方がいいよぉ。
あんな巨大なやつ、ホント危ないじゃん!
幾つか小さな港に寄港しつつ、やがて大きな港へ着いた。
大きいけれどリーバルのようなカラフルな建物はなくて、砂色の四角くて低い同じような建物ばかりが並んでいる。ちょっと味気ない感じ。
でも、港はリーバルに負けず賑やかで騒がしい。見たことのない魚や、織物、いろんなものが行き交っている。
そしてここの人たちは、全体的に肌の色の濃い人が多い。すごいなぁ、やっぱり南の国って感じがするね。
うう、市場に行ってもっと見てみたーい!
降りる前からワクワクしたけど、のんびり観光するヒマはなく……ここで一泊してからすぐにアシャム国へ向けて出発だ。
ちなみにアシャム国は海に面した国ではないため、ここから陸路になるそうである。
港で船から真っ先に降りたリックは、まだフラフラしながら感涙していた。
「あああ、陸……!揺れないってなんて素晴らしいんだ!」
「あんなに乗ったのに全然慣れないのは、かえってすげーよ、兄貴」
「うるせー。慣れるものなら慣れたかったよ!ほとんど酔わないお前に、俺の苦しみなんて一生分からない。吐くものがないのに吐き気が続く苦しみ、教えてやりてーよ」
ごめん、リック。私も分かんない、リックの苦しみ……。
翌日の早朝。
港町の外れには、ラクダに似た背中にコブのあるルダという生き物がズラリと並んでいた。壮観だ。
アシャム国までは、馬ではなくこのルダで行くらしい。
前世と同じで、暑い砂の大地を旅するには背中のコブって重要なのかも知れない。ルダもコブに脂肪を蓄えているのかなぁ。……確かラクダのコブの中身は水じゃなく、脂肪……だったと思うんだけど……。
さて、私はお祖父さまと一緒にルダに乗るようだ。
お祖父さまに付いて、足を曲げて座っているラダのそばへ行く。
近くで見ると、ルダはまつ毛が長くて可愛い目をしていた。
実は私、前世で本物のラクダは見たことがない。なのでラクダとルダの細かい差異は分からないのだけど……ラクダに頭の上のコブは無かった……気がする。
そう、ルダには、背中だけでなく頭の上にもコブがあった。ポッコリと高く盛り上がっていて、ちょっと笑える。
ラクダの背中のコブは太陽の熱を遮る役割もあると聞いたことがある。ルダは、頭……脳もコブで守っているのかもね。
しげしげと眺めていたら、
「手を出したら、噛まれるぞ」
とお祖父さまから注意された。
はーい、分かってますよ!
幼児じゃないんだから、そんな安易に撫でたりはしません!
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします!
今年から、更新は金曜日の昼12時に変更いたします。




