ライアン兄さまからの相談ごと
冬の社交シーズンのとき、ケイティさまに会って、ケイティさまの本へのファンレターを渡そうと思っていたけれど。
急に旅に出ることになっちゃったので、お手紙を書くことにした。
そういえば私、結局、冬の間ぜーんぜん貴族的な社交をしていないままよねぇ。ケイティさま、ジョージーナさま以外、同じ年の知り合いがいなくて大丈夫かしらん。
ま、なんとかなるか~!
預かったファンレター、内容は"作品はとても面白かったです。何度も何度も読みました。また新しい作品を楽しみにしています"と簡単なものだった。
でも、1字1字丁寧に書かれていて、書いた人の気持ちがしっかり籠もっているのが分かる。ケイティさまも、読んだらすごく喜ぶと思う。
しばらくの間、他国へ行くため会えなくなったことを書き、領民の女性からファンレターを預かったと同封した。
さて……旅に出る件、アルにも伝えておかないとダメだよね。
サプライズで、いきなり帝国で会おうかなと思ったけど、アシャム国や他の国にも回るみたいだから……帝国へ着くまでにどれくらい日にちが掛かるか分からない。
わりとマメにアルと文通しているので、急に手紙が途切れたら、アルは心配することだろう。
ここは、素直に伝えておいた方がいい気がする。
アルからの返事は、間に合わないかな?
屋敷は旅の準備でバタバタしている。
でも私は特にすることがないので、手紙を書いたり、アシャム国について調べたり。
お嬢さまって、こういうとき気楽よね~。
そんな中、ライアン兄さまにこっそり呼ばれた。
「どうしたの、兄さま」
「うん……実は、サフィに何か贈りたいから、相談に乗って欲しくて」
ライアン兄さまは、まだサフィーヤ姫に贈り物をしたことがないらしい。
今回、婚約の申し込みでアシャム国への贈り物はいろいろと用意しているけれど、それとは関係なく、サフィーヤ姫へ個人的に特別な何かを贈りたいのだと言われた。
「ドレスは仕立てる時間もないしサイズも分からないから……装飾品にするつもりなんだけど、どういうものがいいかな?あまり派手過ぎず、いつも身に付けてくれるものがいい。ネックレスとかで、オススメなデザイン、ある?」
うーん。
こっちの世界では、貴族は家同士で婚約を取り交わすせいか、プロポーズって無いのよねぇ。
無いのは分かっているけど、こういうときは、やっぱりステキなプロポーズと指輪がいいな~。ロマンチックじゃない?サフィーヤ姫も嬉しいと思うんだけど。
でも、指輪もサイズが分からないと、ムリかしら?
考え込みながら、兄さまを覗きこむ。
「ねぇ、兄さま。プレゼントも重要なんだけど、一生、心に残る思い出っていうのも、すごく大切だと思うの」
「ん?まあ……そうだね」
「だからね、まずサフィーヤ姫と2人っきりになるでしょ。出来たら、景色のいいところがいいな。花の溢れる庭園とか、夜のバルコニーとか」
「……???」
私が何を言いたいのか分からない兄さまは、きょとんとしている。
私は、その兄さまの前に跪いて、兄さまの手を取った。まずはお手本を見せなくっちゃ!
「そしてね。こうやって跪いて、アシャム語で"あなたは私の唯一の輝ける星です。一生をあなたと共にいたい。どうか私と結婚してください"とか何とか言うの。あ、台詞は、兄さまなりに変えてね」
「なっ……!」
ぶわっと兄さまが真っ赤になった。
ありゃ。
「そ、そ、そんな恥ずかしいこと言えるワケないだろ!」
「えぇ?恥ずかしくないよぅ!一生に一度のことだもん。普段は言わないようなことを、このときだけは心を込めて言わなくちゃ!そしたら、絶対に忘れられないステキな思い出になるもん。女はね、そういう思い出だけでも生きていける生き物なんだから」
「言われたことないクセに何言ってるんだよ」
「いつか言われたいの!」
前世では結婚どころか、彼氏作る前に死んじゃったもん。今世で、一度は甘い台詞を言われてみたいじゃん。
って、ムリかなぁ……。
ライアン兄さまはまだ真っ赤な顔のまま、ムダにキョロキョロした。
「サフィは……サフィも、やっぱり言われたいかな……」
「あまり国でいい扱いを受けてないんでしょう?だったら、姫のことが好きだ、ずっと一緒にいたいって言われたら、すごく嬉しいし安心するんじゃないかなぁ。そもそも兄さま、姫にはそういうこと言ってないでしょ?」
「う……」
やっぱり。
恋愛に関しては妙に照れ屋な兄さまだから、甘い台詞は言ってないと思ったんだ。
「じゃ、絶対に!言うべき!……言ったあとにね、指輪とか、ネックレスを兄さまの手で身に付けてあげるの。分かった?」
「えーーー、ムリだよ、恥ずかしい台詞を言ったあとなんて、手が震える!」
まだ私は兄さまの手を取ったままだったんだけど、兄さまは私の手を払って両手で顔を覆ってしまった。
兄さま、ダメすぎ。
「もう!他国へ嫁入りする姫の方が、不安や緊張でいっぱいなんだからね!兄さまがどーんと大きな愛を見せないと!」
「うっうっうっ……お祖父さまや父上の神経の太さが欲しい……」
いやいや、お祖父さまたちは神経が太いんじゃなくて、愛を堂々と声に出すことを恥ずかしいと思ってないだけだよ。
兄さまってもしかして、前世は私と同じ地球の日本人だったりして?




