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ライアン兄さまのお相手は?

 冬至祭が始まるので、アナベル姉さまやライアン兄さまたちが領へ帰ってきた。

「お帰りなさーい、姉さま!」

 私は転移陣から出てきたアナベル姉さまに飛び付く。姉さまは私を抱きとめながら、ニッコリ笑った。

「ただいま、アリッサ。さーあ、アリッサ、一緒にライアン兄さまを問い詰めるわよぉ!」

「はいはーい!」

 待ってました!姉さまなら、絶対、ライアン兄さまから詳しい話を聞くと思ってたんだ!

 先に転移陣から出ていたライアン兄さまが、ぎくっと振り返る。

「ア、アナベル……学院で会ったとき、何も言わなかったくせに……」

 じりじりと後ろに下がりながら言う兄さまに、アナベル姉さまはフフンと胸を反らせた。

「あったり前じゃない、だってアリッサも知りたいはずだもの。私はいいお姉ちゃんだからね、アリッサと一緒にライアン兄さまから話を聞こうと我慢したのよ」

「話すほどのことなんて無いよ!お互い、趣味とか、話が合ったから。それだけ!」

 叫ぶようにライアン兄さまは言って、ダダッと走り出した。

 途端にアナベル姉さまも走り出す。

「アリッサ!追いかけるわよ!」

 そして、あっという間に二人とも部屋から出て行ってしまった。

 後から出てきたお父さまが額を押さえる。

「小さい子供か……」

 ぷぷぷ。

 あんな兄さまが婚約だなんて……笑えるよね?


 逃げ回る兄さまは、結局、セオドア兄さまに捕まえられた。

「ひどいよ、セオ兄ぃ!僕の味方をしてくれないの?」

「諦めろ、ライアン。こういうのは、さっさと白状した方が浅い傷で済む。逃げ回ると、おかしな噂を学院で流されるぞ」

「あああ、もう……とんでもない妹だよ……」

と言いながら、ライアン兄さまがアナベル姉さまだけじゃなく、私も見るのは何故?!

 私は観戦してただけで、追いかけていないのに。

「で?何が聞きたいの。さっきも言ったけど、話が合うから婚約しようって話になったんだけど?」

 ぶすっとした顔でソファに座りながら、ライアン兄さまはボヤく。

 アナベル姉さまは私の手を引いて、兄さまの向かいの席に腰を降ろした。

「だって、あのサフィーヤ姫でしょ?話しかけても、ほとんど返事がかえってこないって有名だわ。話しかけた男子が"あなたと話す気はない"と冷たくあしらわれたって。一部では石姫と言われているでしょ。どうして兄さまと話すようになったか、気になるじゃない」

 ライアン兄さまの婚約相手は、アシャム国第三王女サフィーヤ・ザハラ・アシャムさま。

 褐色の肌をした、なかなかの美少女だと聞いている。

 ふうん……学院では孤高の姫って感じなのかな?

 ライアン兄さまがそんな人を選ぶなんて、なんとなく意外~。

 すると、ライアン兄さまはいつもよりキツイ声を出した。

「その石姫って、止めろよ。ブライト王国の言葉がそんなに上手く使えないから、あまり話さないだけだ。サフィ本人に絶対、言うなよ?」

「言うワケないじゃない。そんな失礼なことはしないわ。……あら、兄さまってアシャム語を話せたっけ?」

「……いや、帝国語で話してる」

「へーえ!帝国語で。じゃあ、私も姫とお話は出来そうね。ね、ね、最初は兄さまから話しかけたの?」

 もういいだろうという兄さまの空気を全無視で、アナベル姉さまはぐいぐいと聞いてゆく。

 ライアン兄さまの後ろには、静かにしているけれどセオドア兄さま、グレイシー姉さま、お父さまとお母さまも立っていて、聞き耳を立てている。みな、気になって仕方ないのだ。

 しかし、ライアン兄さまは腕を組んでそっぽを向いた。

「そんなこと覚えてないよ。何かちょっとだけ話して、ブライト語が流暢に話せないけど帝国語は大丈夫って知ったから、たまに帝国語で話すようになっただけ。はい、終わり!」

「ちょっと兄さま!じゃあ、せめてサフィーヤ姫がどんな人か、もうちょっと教えて。だってお義姉さまになるのよ?少しは事前に知っておかないと」

「直接聞きなよ」

「えええ~、どうして、そんなに話したがらないの、兄さま!」

 兄さまたちの中では一番おしゃべりなライアン兄さまがあまりに渋るので、アナベル姉さまは信じられないといった調子で叫んだ。

 ライアン兄さまはますます口を曲げて、これ以上は話さないぞという姿勢をする。

 私は、そっとアナベル姉さまをつついた。

「姉さま。兄さまが言いたくないって言うなら、これ以上は止めておこう?」

「もう、アリッサったら。あのね?私たちの義理の姉になるのよ?しかも他国の姫でしょ。文化も風習も違うし、私たちとは違う考え方な部分もあるでしょう。どういう人で、何が好きか何を不愉快に感じるか、ちゃんと知っておかないと困ることだってあるんだから」

 ほへー、そんなことは考えもしなかった……アナベル姉さま、すごい。

 私が感心していたら、ライアン兄さまは鼻で笑った。

「アリッサ。アナベルは、もっともらしいこと言ってるけど、ただ好奇心で知りたいだけだよ。そんな風にすごいなぁって簡単に信じちゃダメ」

「んんー……でも……やっぱり、ちょっとは兄さまからサフィーヤ姫のこと、教えてもらいたいな。サフィーヤ姫も、兄さまが家族に自分のことを話してないって知ったら悲しいかも」

 私が考えながら答えたら、兄さまは首を傾げた。

「悲しい?」

「だって、正式に婚約するんでしょ?もう周りに隠すことでもないし。それなのに家族に何も話してないって、なんていうか……私だったら、"私のことを恥ずかしい"と考えているのかなって思っちゃう。兄さまが照れてて、恥ずかしいだけだとしても」

「…………」

 兄さまは、硬く組んでいた腕を少し緩めた。

 戸惑った表情で、そっと尋ねてくる。

「アリッサだったら……家族に自慢しておいて欲しい?」

「自慢までしなくていいけど……。でも、自分のこと、少し良く言っておいて欲しいかなぁ。だって初めて顔を合わせるとき、先に好印象を持っておいてくれたら、安心するもん」

「そっか」

 横で、アナベル姉さまが"お見事!"とでも言うようにトンと軽く肘でつついてきた。

 もう、姉さまったら。

 ライアン兄さまは、情けない形に眉尻を下げた。

「正直、僕もさ……最初は無愛想な子だなって思ってたんだ。でも、国であまり良い扱いをされてなくて、笑ったりすると余計に酷い扱いを受けるらしくてさ。それで、笑い方が分からないって」

「えっっっ、ヒドイ、それ!」

「だろ。……だけど、僕は別に同情でサフィのこと、好きになったんじゃないよ?いろいろ、辛いことが多いだろうに……そういうのを一切表には出さないし、前向きなところがすごいなと思ったから……」

「そっか……。えと……あんまりこっちから話しかけたりしない方がいい?あと、兄さまにくっついてたら、気分悪くする?」

 お姫さまの前で家族が仲良さそうなのを出さない方がいいのかしらん。

 すると、兄さまはハッとしたように真剣な顔になった。

「ごめん。僕、自分のことしか考えてなかったかも。……サフィは、うちの家族の仲の良い話を聞くと幸せな気分になるって、いっぱい聞いてくるんだ。それで、本当に嬉しそうに笑うから……アリッサやアナベルと話すのも楽しみにしている。仲良くなれるならなりたいって。たぶん、最初は緊張しているせいですごく無愛想に見えるだろうけど、普通に話してやってくれる?」

 私はアナベル姉さまと顔を見合わせた。

「もちろん!」

 新しいお義姉さまが増えるって、楽しみだよね!


 ライアン兄さまは、家族に自分の恋愛面を見せるのは恥ずかしいから、あまり話したくなかったそうなんだけど。

 その後は、いろいろとサフィーヤ姫のことを教えてくれた。

 後ろで、お父さまやお母さまが「アリッサ、よくやった!」という顔で頷いている。そっか、お父さまたちも、お相手のことが分からなくて困ってたんだ……?

 まさかねー、ライアン兄さまがこんな照れ屋だったなんて思わないもんね。言えない事情があるのかって心配にもなる。

 ライアン兄さまは、オリバー兄さまやセオドア兄さまに比べたらおしゃべりだし、いつも女の子とも気軽に話していることが多くて、それをからかっても平気だったくせに……変なの。

 私がそう言ったら、ライアン兄さまはちょっとだけ赤くなった。

「サフィは、他の子と全然違うからさ……あんまり、軽く流せないんだよ。僕もホントはこんな自分に戸惑ってる」

「ふうん。きっと、それだけ好きってことなのかなぁ。うちは、お祖父さまもお父さまも好き好きがダダ漏れだから、みんなそういう感じになるのかと思ってた」

「うーん、うちは……ちょっと変わってるし、極端だと思う」

「そう?」

「そう。人前でも、普通はベタベタしないしね!」

 うん、まあ……そっか。政略結婚の家も多いし。

 それに、考えてみれば……もう記憶が薄くなっているけど、前世でもお父さんとお母さんがベタベタしてるのは見たことなかったかなぁ。恋愛結婚だったはずだけど。

 ふふ、でもラブラブな夫婦っていいよね?

 ギスギスしてるより、絶対、幸せだもん。私も結婚するなら、お祖父さまやお父さまみたいにラブラブを前に出してくれる人がいい。

 サフィーヤ姫も……照れ屋なライアン兄さまと楽しくて幸せな家庭を築けるといいな。

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