表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかして悪役令嬢 ~たぶん悪役令嬢なので、それっぽいフラグを折っておきます~  作者: もののめ明
アルフレッド視点3

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/368

ひそかな打ち明け話

ちょっと長めです……

 フロヴィンたちに空き教室へ引っ張り込まれ、質問攻めにされた。

 僕は、火龍公爵家の令嬢―――アリッサとは友人だと彼らに前に説明していたのだが……今回の手紙がアリッサからで、その返事を書くために僕が昼休みを返上しようとしているのだと分かるなり、ニヤニヤと小突かれた。

「なんだよエディ、隠すなって」

「そうそう。正直に僕らに話しなよ?応援するよぉ!やっぱ、お兄さんのせいで婚約できないの?」

 ……うう、夜まで我慢すれば良かった。

 僕が返答に窮していたら、急にフロヴィンが真面目な顔になった。

「エディ。いや、アルフレッド。僕らは平民で帝国民だけど、君とは本当の友達だと思っている。この件、君の立場的に言えないことがあるなら、ムリに詮索はしない。……これ以上は、聞かない方がいいかい?」

「フロヴィン……」

 リートとマークが顔を見合わせ、慌てたように居住まいを正す。

「わ、悪りぃ。そっか、俺らと立場が違うよな。好きってことも、簡単には言えないか……」

「そうだよね、ごめん!……あ、でもでも、僕らは商人だからね。マークは違うけどさ、でも商売をする人間って情報の大切さをよく知っている。エディのこと、安易に他へは喋ったりしてないからね。口の固さは信用して欲しい」

 ……僕は、こんな風に気安く楽しくて、気の利く友人が出来たことに感謝しないといけないな。

 本当は、フロヴィンたちにもっと込み入った話をしたい。

 エリオットだって友人だけれど、貴族同士の節度ある付き合いだ。フロヴィンたちのように、馬鹿な話で盛り上がって、くだらないいたずらをして遊ぶことはない。僕は初めて遠慮のない友人が出来て、浮かれているんだと思う。

 身分も、国籍も違う。

 話しすぎるのは良くない。

 だけれど。

 僕は、後ろに控えているウィリアムに言葉を掛けた。

「ウィル。外で見張りをしてくれ」

 ウィリアムは器用に片眉を上げた。しかし何も聞き返さず、「承知しました」と外へ出てゆく。

 マークが心配そうに僕と扉の方を何度も見る。

 僕は苦笑しながら、声をひそめた。

「本当は、ずっと誰かにこの話をしたかったんだ。ここだけの話として、聞いてくれるかい?」

 リートがぴょこんと飛び上がって、背筋を真っ直ぐに伸ばす。

「うん、わかった。エアデル神と、僕のご先祖さまに誓って……誰にも話さない」

 フロヴィンとマークも後に続いた。

「エアデル神とヘンドラー家の血にかけて。アルフレッドの話は誰にも話さないよ」

「俺も、エアデル神と祖先に誓う。誰にも話さない」

 僕は笑顔になって頷いた。

「ありがとう、リート、フロヴィン、マーク」


 取り留めもないまま、僕は話し始めた。

 母と、火龍公爵家のコーデリアさまは仲が良く、幼い頃から僕とアリッサを婚約させる話が何度か持ち上がっていること。

 だけど、火龍公爵は四龍のバランスが崩れることを懸念し、婚約話を進めたくないと思っていること。

 僕としても、火龍公爵が憂慮していることをよく理解出来る。アリッサとの婚約によって、僕と兄、そして四龍の間で争いが起きるのは、不本意だ。なので、婚約話を進めることが出来ない……。

「でも……困ったことに、僕はアリッサのことは好きなんだよ。王族の人間が好き嫌いで伴侶は決められないと分かっているけれど……アリッサじゃないなら、僕は他の誰とも一生を共にしたくないと思うくらいに」

「……僕らはまだ10才にもなってないよ?その判断、早くない?」

 リートが目をパチパチさせながら言った。フロヴィンがそれを肘で突く。

 僕は肩をすくめた。

「ブライト王国では、四龍は愛情が深いとよく言われるんだけど。あまり知られていないけれど王族もね、一つのことに執着しやすい性質らしいんだ。誰かを好きになったら、身分を捨てることを厭わない。国に身を捧げると決めたら、何を犠牲にしてでも捧げる。全員という訳ではないけれど、10才くらいまでに何か強い執着を持ってしまったら、ずっとそれを持ち続ける者が多いらしい」

 ウィリアムの父で僕の伯父でもあるスタンリーがそうだ。第1位王位継承者だったのに、平民の少女のことが好きになり、早々に継承権を放棄した。相手が受け入れてくれなかったら、伯父はどうするつもりだったんだろう?と今でも内々で語り草になっている。

 あと、あまり大きな声では言えないけれど……そのせいで現大公たちは王になるという執着を持ってしまった気もする。

「そっか……血は逆らえないよねー……」

「リートの一族も、何かそういう特別な一面ってあるのかい?」

 しみじみと納得されたので、思わず尋ねる。

 リートは苦笑した。

「僕の一族は、エディみたいにカッコいいものじゃないよ。食べ物に対する執着がすごいだけだ。執着って言うのかなぁ……一度も食べたことのない食べ物は、食べずにはいられないってやつ。ご先祖さまには、毒のある魚で死んじゃった人もいるよ。ヤバいって分かっていても、試さずにはいられないんだ。僕は小さい頃、道端の石を順に口に入れていたらしくて、伯母からは特に血が濃いって言われている」

「……す、すごい血だね。変な食べ物をリートの前に出さないようにするよ」

「うん、そうして欲しい~。絶対、マズイだろうなって分かっていても、食べたことのないやつは食べてみたくてウズウズするんだ。食べなかったら、1月くらい夢に見続ける」

 うわぁ、それは結構、大変そうだ。

 世の中には、変な血があるんだなぁ。

 マークが片手を上げた。

「えーと、ごめん、話を戻すけど……エディ、それで、その好きな子のこと諦めるのか?」

「ん……そうだね、彼女に誰か好きな人が出来たなら諦める。でもそれまでは、何か、良い方法がないか、模索しようと思っている」

 さすがに、いずれ王室から出るつもりだとか、魔獣討伐隊へ入りたいとか、そういう具体的な話までは出来ない。

 だけど、マークはバシンと僕の背中を叩いて応援の意を表してくれた。

「そっか!内緒の話、教えてくれてありがとなー。上手くいくよう、祈ってる」

「ありがとう」

 その横でフロヴィンが心配そうに目を細める。

「僕らにそんな話をして、良かったの?」

「うん。……国では、アリッサのことが好きだなんて声に出して言えないからね。彼女にも、言えない。だからずっと、誰かに打ち明けたかったんだ。すっきりしたよ」

 これは、本当に心からの気持ちだ。フロヴィンたちの好きな子の話は聞くのに、こっちが話せないのはずっともどかしかった。

 リートがわくわくした目で、僕がまだ手に持っている手紙を見る。

「そうなんだ~。言えないって辛いよね。でもさ、でもさ!実は……彼女の方もエディのこと、好きなんじゃないの?手紙を送ってくるなんて!」

「どうだろう?アリッサはすぐ誰とでも仲良くなる。僕も友達の一人だとしか思われていないんじゃないかな……。実際、前から何度も“友達”って言われてるし。あ、でも、怒ってるって聞いていたのに手紙をくれてホッとした」

「ん?どういう意味?」

「えーと……いろいろあって、帝国へ留学する件をアリッサに言わないままこっちへ来てしまったんだ。それで、アリッサは怒っていると聞いていたんだけど。手紙を読んだら、そんなことはなかったみたいで。だから急いで返事を書こうかな、と」

 リートを押しのけ、眉を寄せたマークが僕の前に来た。

「ちょっと待て。黙ってこっち来て、手紙も出してないままだったのか?」

 僕は気まずくて目を逸らした。

「う、うん。どう書けばいいか、分からなかったし……」

「バカ!お前、好きな子なんだろ?!何してるんだよ!」

「いや、でも、怒ってなかったし、僕の心配もしてくれてるようだし……」

「あーもう!女の言うこと、そのまんま信じるなよ!姉貴とか、やさしい笑顔で“怒ってないわよ~”って言いながら、実はめっちゃ怒ってたりするんだよ。女の話を鵜呑みにしたら、あとで痛い目に遭うぞ!」

「それは君のお姉さんの話……」

「そんなことない!」

 フロヴィンも加わった。

「従業員の女性が、笑顔で接客しながら裏でどれだけ怖いか!それに仲の良さそうな夫婦でも、女の人は他ではすっっっごい夫の愚痴を言ってる。夫は他ではデレデレ妻の自慢をするのにね。……たとえまだ子供でも、女の人の本音なんて分からないよ。特にその子、公爵家のお嬢さまなんでしょう。自国の王子に出す手紙なんだから、本音は上手に隠すと思うな」

 えーーー?

 アリッサは、そんなことはない……と思う。どちらかといえば隠しごとは苦手な方では。僕の方が本音を隠している。

 しかし、僕はフロヴィンとマークに盛大に怒られ、大慌てで手紙を書く羽目になったのだった……。


 その夜。

 寝る支度を終え、ベッドに入ろうとしたとき、自室へ下がりかけていたウィリアムが「あ、そうだ」と立ち止まった。

「殿下。僕は殿下がどの道を選んでも、応援しますからね」

「……突然、何を?」

「ん~、殿下が王位継承権を捨てる選択をしても応援するってことです」

「…………」

 フロヴィンたちとの話を盗み聞きしていた訳ではないらしい。僕はそこまで話していない。ま、ウィリアムはそういうことはしないだろうけれど。

 でも、僕がウィリアムを外に出してフロヴィンたちといろいろ話していたから、アリッサを選ぶために僕が採りそうな道を予測したんだろう。

 返答に困っていたら、ウィリアムはへらっと笑った。

「なんとなく、殿下はそうするんじゃないかと思ったので」

「……ウィルは、僕が王太子にになるのを望んでいるかと思っていたけど」

 小さく問い返したら、ウィリアムは頭を掻いた。

「ブランドンさんやヘザーさんはそうですね。僕も、前はそう思ったこともありましたけど……それは、どう見てもマーカス殿下が王太子に相応しくなかったからですし。でも、この頃のマーカス殿下は変わりましたもんねぇ。前はどーしようもない悪ガキだったのに、急にシュッとアルフレッド殿下のいいお兄ちゃんになったじゃないですか」

 不敬なことをさらっと口にして、ウィリアムはにやっと笑った。僕もつられて笑う。

 なので、素直に本音を口にした。

「僕は……兄上が王太子になって欲しい。そのために兄上はとても努力をしている。元々、僕に王位に就きたいという願望がないし」

「そうですよねぇ。だけど、アルフレッド殿下が次の王になったらいいなぁと思う僕の気持ちが消えたワケではないですよ。マーカス殿下より、アルフレッド殿下の方が優秀ですもん。お小さい頃から、周りの言うことにもちゃんと耳を傾けてますし、勤勉だし、なんでもすぐこなしちゃうし。立派な王さまになる素質は、マーカス殿下より上でしょう!」

「そ、そうか……」

 ウィリアムがこんなに褒めるのは珍しいので、思わず赤面する。そんな僕を前に、ウィリアムは真面目な顔で頷いた。

「ええ、そうなんです。……ただね。僕は、殿下と初めて会ったときに、一生仕えるのはこの人だとピンと来ちゃったので。ピンと来た以上、殿下の選択には一も二もなく従うって決めています。というより、殿下には幸せになって欲しい。後悔のない生き方をして欲しい。だから、周りから反対されるような選択でも、僕は応援します。支持します。付いて行くので、自分一人で決めて消えてしまわず、ちゃんと教えてください」

 ……あーあ。

 ウィリアムも、王家の血かな。僕なんかにピンと来るなんて、良かったのか悪かったのか。初めて会ったのなんて、僕が赤ん坊の頃なのに。

「ウィル……でも、もし僕が身分を捨てて平民になるって言ったら?平民に護衛も従者も要らないよ」

「あっ、それは……」

 ウィリアムは愕然とした様子で、頭に手を置いた。

「そ、そのときは、しっかり稼げる平民になって僕を雇ってください」

「あはは、僕が稼ぐの?そこはウィルも一緒に働くもんじゃない?」

「僕は商売は向いてないし、殿下以外に仕える気もないですしねー。よろしくお願いします」

 頭を下げられてしまった。

 まいったな、魔獣討伐隊に従者連れで入れるものだろうか?

 ま、そのときになったら、そのときに考えればいいか。

 どんな選択でも味方になるとウィリアムが言ってくれたおかげで、僕はなんだかすごく心が軽くなった。

 帝国へ1年も留学するなんて冗談じゃないと思っていたけれど、留学のおかげで、僕の世界は急に様変わりしてきた気がする……。

これにてアルフレッド視点3、終了です。アリッサへ戻ります。

なお今後は、アルフレッド視点の章がなくなります。「もしかして悪役令嬢」なのに、気付けばすっかりアリッサとアルフレッドの二人主人公になってるし! どうしてこんなにアルフレッド視点が長くなるんだ……。とりあえずアリッサの話の補完としてアルフレッド視点があるので、これからはときどき、必要だな~と思ったときに間に挟みます。

それと、来週は更新をお休みします。アリッサに頭を戻さなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 食の探求は大事ですよね〜 (現代日本人)先人たちがいたからこそ、食べれる!食べれない!がわかったのだし、いろんな食べ方も発明されたしね!? 今でもいろんな調理法は考えられ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ