アリッサからの手紙
アリッサから、手紙が来た。
……アリッサの方から!
僕は数日前から、午前中はまだ字を読めない・書けない平民の生徒に字を教え始めていたのだけど……教えながら、何度も上の空になってしまった。
火龍公爵やエリオットとはすでに何回か手紙のやり取りをしていて、アリッサが怒っているということを教えてもらっていた。
当然だと思う。だから、どんな手紙を書けばいいか悩んでいたのに……今朝、読んだ手紙の内容は、そんな僕の不安を吹き飛ばすものだった。
アリッサは―――留学の件は驚いたけれど、直接、いってらっしゃいを言えなかったのが残念だと書いていた。1年会えないのは寂しいとも。
慣れるまで大変だろうからムリしないでという一文もあって……すごく、すごく嬉しかった。
恐らくアリッサ考案であろう珍しい文具もいろいろと同封してあり、どうやら怒っているというのは、間違いだったようだ。
ああ……良かった。
どうしよう、急いで返事を書かないと。
アリッサには、帝国のことで話したいことがたくさんある。何から書けばいいだろう?
その前に、たくさん文具を送ってくれたから、こちらからも珍しい何かを送らなければ。フロヴィンとリートに相談だな……。
「エディ、なんかあったのか?」
昼休みになるなり、マークから心配そうな声を掛けられた。午前中、僕はマークと2人で字を教えて回っていた。そのときから、僕の様子が気になっていたらしい。
……ちょっと上の空だったから、心配させてしまったようだ。
「いや、何もないよ。でもごめん、今日はお昼は別行動をしたい。それと午後の授業が終われば、フロヴィンとリートに買い物に付き合って欲しいと伝えておいて欲しい」
「ん、わかった」
フロヴィンやリートならもう少し聞いてくるが、マークは割りとあっさりした性格をしている。片手を上げて、すぐにさっさと食堂へ行ってしまった。
それを見送り、僕は人気のない裏庭の方へ向かう。
後ろからついてくるウィリアムが声を掛けてきた。
「まさか、今からアリッサさまへの返事を書くんですか?」
「うん」
途端にウィリアムの声が呆れた調子になった。
「ここまで遅くなったんだから、そんなに慌てて書かなくても」
分かっている。分かっているけど、気になって仕方ないんだから、書かない訳にはいかない。
「いいだろ。早く書きたい気分なんだ」
「……ん~、つまりアリッサさまは怒ってなかったんですか?」
「ああ。エリオットの勘違いだった」
「そうですか!それは良かったですねぇ」
心底ホッとした感じだったので、思わず振り返ったらウィリアムは満面の笑顔だった。
「じゃ、早く返事書かないと!ですね」
「うん……」
僕より、ウィリアムの方が喜んでいる……。
今朝、この手紙を僕のところまで持ってきたはウィリアムだ。そのときからずっと気になっていたのかも知れない。
だとしても……喜びすぎだよ……。
ベンチに座り、鞄の中から手紙を取り出す。
もう文面は覚えてしまったけれど、もう一度、読み直す。
さて、まずは何から書こうかな。
考え込んでいたら、「エディ!」と呼ばれた。
顔を上げると、リートを先頭にフロヴィン、マークの姿が見えた。マークは気まずそうに頭を掻いている。
「様子が変だというから、心配になって来ちゃった」
リートがニコニコ言いながら、僕の隣に腰掛ける。
「あれ?手紙?もしかして、誰か具合が悪くなったとか?」
「まさか、もう帰ってこいとか?」
腰掛けたリートの後ろから、フロヴィンが眉を寄せて尋ねてくる。
……あああ、もっと見つかりにくいところへ行けば良かった!
これは根掘り葉掘り聞かれて、洗いざらい喋らされる……。
アリッサ、まだ怒ってはいるんですけどね~。
さすがにアルフレッドもあの手紙の文面からそこまで読み取れません。




