街を見学する
帝国での生活が始まった。
僕は寮生活だ。といっても、僕の入っている寮は他国の王族や高位貴族用の、特別な寮である。部屋が3つ、従者用の部屋が2つもあった。
ウィリアムは、
「広っ……!」
と絶句。
うん、僕ら2人には確かに広すぎる。
ちなみに現在、この寮で王族は僕だけらしい。従者1人というのも僕だけ。
……ううーん、もう少し、連れてきた方が良かったんだろうか?でもブライト王国の学院なら、普通は護衛1人だ。異国だからって、そんなに必要だろうか?
「まあ、他の部屋の方々は、帝国の属国ばかりですからねー。あの皇太子と同じように、派手にぞろぞろ連れて歩きたいんじゃないですか」
なるほどねぇ
さて、まずは街に慣れておくべきだろう。
ウィリアムと2人で、さっそく街に向かう。ライリーが僕を案内するために、街の宿屋で待っている。
ちなみにバートは、さすがにリーバル領をこれ以上空けておくのは良くないため、皇帝との謁見後にすぐ帝都を立った。
なお、寮を出てすぐ、前からよく使用している魔道具で変装もする。髪色は変えておかないと、僕やウィリアムの金髪は、この国ではかなり目立つ。
―――帝都は、木造の建物ばかりだ。
ブライト王国では、王都や領都は石造りの建物が多いので、妙な感じを受ける。
皇宮も木造だった。ただし恐ろしく太い木の柱が使われていて、天井も高く、なかなか圧巻ではあったけれど。
「この国は、高い建物がありませんね。ほとんどが二階か三階建てだ」
ウィリアムがキョロキョロしながら、呟く。
「うん。皇宮も三階建てだったね。まあ、普通の五階か六階くらいはありそうだけど。それに、奥に広そうだった。……高い建物なのは、皇宮にあるあの塔と、街中のあの塔くらいかな?」
「そうですね。あんなに高い塔を、木組みで造っているんですね」
建物は、どれも複雑に木が組まれており、それが装飾のようにも見える。黒い木材に、白の漆喰の壁。そして、三角屋根。街の建物は全部それで統一されていて、まるで異世界に来た気分だ。
港町のリーバルも、見慣れない様々な色の建物で溢れていてビックリしたけれど、帝都の驚きはそれ以上だ。
宿屋の前にはライリーが待っていた。
「どうですか、帝都は?ブライト王国とはかなり違っていて面白いでしょう?」
「はい。ここに来るまででも、ずっとキョロキョロしていましたよ」
「昨日は馬車で、あまり外の景色は見えませんでしたしね。じゃ、まずは中央広場から市場の辺りまでをご案内します!基本的に、生活に必要なものはうちの商会へ言ってくだされば、すぐに届けますが、せっかく異国に留学ですもんね。ご自身で買い物もしたいでしょう?危なくないお店をいろいろ紹介しておきます」
ライリーの言葉に、ウィリアムが眉を寄せた。
「危ない店があるんですか?」
「帝都の人間じゃないと見ると、ボッタくる店がありますね~。あと、裏路地の方は基本的に行かないようにしてください。ま、どこの国でも同じですが、妙なやからに絡まれやすいので」
「わかりました」
中央広場には、初代皇帝の像があった。
「結構、あっちこっちに皇帝の像がありますよ。初代と、三代皇帝の像が多いですね」
「ふうん……」
ブライト王国では、王の像など、街中には飾っていない。街中にあるのは、神々を祀る祠くらいだ。
帝国は、神よりも皇帝を大事に奉っているのだろうか?不遜だなと思う。
広場から市場へ向かいつつ、ライリーは周囲の建物を指した。
「帝国は木骨造りの建物ばかりでしょう?どうしてかと言いますとね……この国では年に1、2度、地揺れが起きるからなんです。石造りだと崩れる場合があるので、木骨造りになっているらしい。あまり高い建物がないのも、それが理由ですね」
「地揺れ?」
よく分からなくて、首を捻る。ライリーはニコッと笑った。
「ブライト王国では、四龍の守護で地揺れは起きないですもんね。……大地が大きく揺れるんです」
「えっ、それって大地の神が怒ってるんじゃないんですか?!」
ウィリアムが仰天する。僕も、驚いて思わず立ち止まった。
「うーん。こっちの国の人はそう考えていないですねー。地の気が溢れている証拠らしいですよ。だからこそ、帝国の大地は豊かなんだそうです。……大昔には、地割れするくらい大きく揺れたこともあったそうですが、今は軽く揺れるだけらしいですし。でも、僕は初めてのときは怖かったですよ~。この世の終わりかと思いました」
……いや、地が揺れるって、どう考えても大地神への信仰が足りないせいでは?
国が違えば、まさかそんなことさえ、捉え方が違うとは。他国を知るというのは、考え方の違いを知ることなんだな。
帝国の建築物、木造ですが、和風な建物ではありません~。
ドイツのローテンブルクなどのイメージ。でも、ローテンブルクには石造りの建物もあるし、壁の色もカラフルだったりしますけどね…。




