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ようやく大会当日

 リバーシ大会当日になった。

 朝から忙しい。正装し、少し早めに会場となるホールに行く。

 先に着いていた兄上が僕と会うなり眉を寄せた。

「アルフレッド。目が据わってるぞ。もうちょっと……その、落ち着いてくれないか」

「落ち着いていますけど?特にいつもと変わらないでしょう?」

「……いや、この間からまるで殺気みたいなものを周囲に振りまいている」

 そんな訳がない。こんなにも頭の奥が冷えているのは、生まれて初めてだ。

 そうこうするうちにエリオットが到着し、四龍も揃った。風龍公爵がてきぱきと指示を出す。

「参加諸侯は、すでに別室へ集まっている。マーカス殿下、陛下とともに壇上へ。地龍翁がしばらくお側に付きます。アルフレッド殿下とエリオット殿はオーウェン団長と一緒にいてください」

 その後は、一気に騒がしくなった。

 兄上が開会宣言をし、僕がルールの説明。

 そして、すぐに試合が始まった―――。


 午前中は予選である。

 僕やエリオットは審判係だが、この審判もなかなか大変だ。きちんとルールを把握していない人がいて、間違った手を平然と打つので、そのたびに止めてルールの説明をする。駒を裏返すときにこっそり余分な駒を裏返す姑息なことをする人もいた。

 ……いい年の大人が情けない。

 そんな訳で何試合もずっと集中し続け、昼には結構ヘトヘトになっていた。

「……次回開催時は、審判を増やしたいですね。休憩が全然ない……」

 いつもほとんど表情の変わらないエリオットが、珍しくげっそりした顔で言った。僕は頷く。

「まったくだ。しかも、下手な人の試合を見ているのはわりと苦痛で……」

「同感です!何故、そこに置くのかと何度口に出しそうになったか。先のことをまったく考えていない手に、イライラします」

 良かった、エリオットも同じか。

「次は、ぜひ、子供も参加できるようにしましょう。私は殿下と対戦したくてしょうがない」

「そうだね。そのときは、負けないから」

「こちらこそ」

 フッと不敵に笑うエリオットに、僕も闘志がみなぎる。

 うん。ちょっと気力が回復したぞ。


 予選の結果から本戦の組み合わせを決め、短い昼休憩はあっという間に終わった。

 さあ、午後の本戦開始だ。

 1回戦が終わろうとする頃だった。

 入り口辺りが少しざわついた。ふとそちらを見ると……アリッサだ。

 目が合った瞬間、逸らされる。

(…………!)

 収まったと思っていた苛立ちが、再び心に湧き上がる。

 僕に悪いと思いながら、こうやって危ない場所へのこのこと来た彼女に。

 そのときちょうど試合が終わり、ほんの少しだけアリッサの元へ行こうとしたら……アリッサたちに近付く風龍公爵の姿が見えた。

「殿下。ご令嬢がたのお側には、このあとは地龍公爵が付きます。心配は無用ですよ」

 ニコニコと近衛騎士の一人がそっと教えてくれた。

 僕の護衛ではない。ちらっと壇上を見ると、兄上が顰め面で首を振った。

 ……分かっています、アリッサとここでケンカなんてしませんよ。


 そのあとはアリッサに気を回している余裕がなくなった。なんだか楽しそうに談笑している姿だけは、ちらちらと覗ったけれど。

 だけど、それまで複数の試合を同時進行していたのが準々決勝からは1試合ずつになった。残りの試合はすべて、風龍公爵が審判だ。

 おかげで、僕とエリオットはようやく席につき、ゆっくりとお茶を飲むことができた。

 はあ、疲れた……。

 室内の盤ゲームの審判でもこんなに疲れるなら、外で行われる騎士の剣術大会などはもっと大変なんだろう。いい経験になった。

「ディたちの元へ行きますか?」

 お茶を飲み終わり、エリオットが向こうの席を指す。

 僕は行きたい気持ちを抑えて首を振った。

「エリオットは、向こうへ行ったらいい。だけど僕はここにいるよ。これでもし敵が動くなら……王族が狙いか、四龍が狙いか、はっきりする」

 ハッとしたようにエリオットが目を見張った。

「確かに。……では、私は別の場所で試合観戦いたします。ディたちと一緒ではなく。私1人でいる方が、囮になるはずだ」

「そうだな。頼む」

「はい」

 エリオットが立ち上がり、違う席へ移ったときだった。

 地龍公爵がアリッサを連れて廊下に出るのが見えた。いつの間にか、水龍公爵がアナベル嬢たちの横に付いている。

 何か……あったのか?

 目立たないようにオーウェン団長が出て行くのも見えた。

 どちらも慌てた雰囲気ではない。ない、けれど……絶対に何かあったのだ。

 今すぐ席を立って、アリッサの無事を確かめたい。けれど大会の運営側にいる以上、今、僕までここを離れることは出来ないだろう。

 うう、歯がゆい……!

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