地龍翁とアリッサ
兄上と共にアリッサを出迎えに行く。
僕らが仲良く並んで歩いているので、周囲は興味津々だ。グレアムのところで一緒に訓練を受けていることは知られているが、訓練場以外では特に行動を共にすることはないせいかも知れない。
「今日は殿下がたが揃って、何をされるのですか?」
好奇心に負けたらしい一人が、何気ない風を装って尋ねてきた。彼は、どちらかと言えば僕を王太子にと推している派だったな。
「今度、マーカス兄上主催で催しをする予定です。今日はその件の打ち合わせをします」
「マーカス殿下主催の……」
にっこり笑って説明したら、探るような目で見られた。
探られても、裏側なんて無い。僕のことは諦めて、さっさと兄上側についてくれればいいんだけど……。
玄関ホールへ着いたら、もうアリッサが待っていた。周囲の視線を集めている。
僕らが到着したことで、さらに注目の的になっているようだ。
兄上が小さな声で囁いた。
「さっきはアルフレッドが私を引き立ててくれたから、今度は私がアルフレッドに協力する」
え?
どういう意味だろう?
問い返す暇もなく、アリッサと挨拶を交わす。
アリッサは他所行きの顔で澄まして綺麗なカーテシーをする。らしくない仕草に、僕はちょっと笑いそうになってしまう。
アリッサはそんな僕を見て、「あっ」という表情になった。
兄上がくすくす笑う。そして大袈裟に僕を指した。
「その剣帯、アルフレッドの誕生祝いにアリッサ嬢が贈ったのだろう?アルフレッドはよほど嬉しかったみたいだね。父上へ、城内でも剣を持ち歩く許可をくれと交渉していたよ」
!!
こ、ここでその話をするのか?しかもそんな大きな声で……。
面白いことを聞いた!といった顔の諸侯たちが僕とアリッサを交互に見ている。
うう、兄上……こういう協力はいいです……。いや、まあ、兄上はアリッサに興味がなく、僕とアリッサの仲は良いと皆に周知させられるけどさ……。
アリッサを連れて廊下を歩いていたら、まさかの地龍公爵と行き合った。
「殿下がたをすっかり虜にしているという、火龍の娘御に是非ともお目にかかりたくてな」
あ~~~……面倒な老人に捕まった……。
兄上も同じ思いらしい。肩が落ちたのが分かった。
とりあえず、アリッサを守らなければ。
急いで前へ出ようとすると、アリッサが僕の袖を引いた。そして、落ち着いた仕草で地龍翁へ丁寧な挨拶をする。
「ほう。父親より礼儀正しいな」
いつも通りではあるけれど。
アリッサの挨拶に、翁から返るのは棘のある言葉だ。しかしアリッサはそれに答えず、にこっと笑った。
……驚いた、アリッサは案外、大人な対応をするんだな。実のところ、遠慮なく言い返すかと思っていた。
とはいえ翁が大人気ないので、そこから更に“下らぬ遊戯を王城で広めるのか”とか何とか言い出す。
まったくもう。それ、アリッサに言うのか?
提案したのは、兄上(実際は僕とエリオットだが)なのに。
すぐさま兄上が咎めるけれど、翁はどこ吹く風といった顔だ。
さて、どうやって地龍翁を追い払おう―――と頭を働かせていたら、突然、アリッサが「玄剛石…?」と口走った。
「え?今、なんと?」
「……これが何か、知っているのか」
そこからの経緯は……意味不明だった。
玄剛石の話でアリッサと地龍翁は瞬く間に盛り上がり―――最後は、何故か玄剛石の加工工房を見学するという約束まで交わし……アリッサは地龍翁に抱き着いた。
「…………」
兄上が引き攣った顔で僕を見る。
いや、もう……僕にも理解できません兄上。アリッサはもしかすると、地龍翁に何か魔法でも掛けたんじゃないですか?




