さっそく剣帯を使う
部屋へ戻ると、ヘザーが「あら?」と目を細めた。
「アリッサ様と楽しいかも時間を過ごされたのですね」
「え?」
「うふふ、お顔が緩んでおります」
ゆ、緩んでる?
慌ててぐっと口を結ぶ。
後ろにいたウィリアムが、ささっとヘザーの元へ駆け寄った。
「ヘザーさん、聞いてくださいよ~。殿下ね、アリッサ様から誕生日プレゼントもらったんです。それでニヤけちゃって」
「まあまあ!そうなんですか!あら~、何を頂いたんですか?」
ウィリアムめ!口の軽い護衛なんて、失格だぞ。
その上、隣の部屋にいたブランドンまで聞きつけて、「爺にも見せてくだされ」とやって来た。
まったくもう……僕の周りは野次馬ばかりだな!
……でも本音を言うと、ちょっとだけ見せびらかしたかったのも事実だ。
昼食を食べ、アリッサからもらった剣帯を眺めていたら。
やっぱりずっと身に付けていたくなった。
アリッサは僕の贈ったアクセサリーをいつも身に付けてくれている。僕も同じようにしたい。
もちろん、前に彼女からもらった守り刀は常に身に付けている。だれどあれは役割上、目立たないところに付けるものだ。そうではなく、皆からも見えるところに……アリッサからもらったものを持っていたい。
僕は剣帯を持って父上のところへ向かった。
―――父上は、ちょうど午後の執務へ向かう途中だった。僕の突然の来訪に驚いた風ではあったものの、執務室まで一緒に来るよう言われる。
執務室へ着用き、中へ入るなり……僕はすぐさま王城内での佩剣許可を求めた。
「何故、急にそんなことを?」
合点の行かぬ顔で父上が尋ねる。僕は剣帯を掲げた。
「……アリッサから剣帯をもらいました。せっかくなので、この機会に剣を持ち歩きたいと思いまして」
剣術の腕が未熟なうちは、駄目だと前に言われていた。もし、僕の身を狙う輩がいた場合、そいつが何も持たずとも僕の剣を奪えば簡単に事を成せるから、と。簡単に敵に剣を奪われない実力をつければ、剣を持ち歩く許可は出そうという話でだった。
グレアムに鍛えられている今なら、もう、大丈夫のはずだ。
剣帯を見た父上は、意外なほど優しい笑みを浮かべた。
「ほう、そうか。アリッサ嬢からそれを……。わかった、佩剣の許可を出そう。今からでも持ち歩きなさい」
「ありがとう……ございます?」
あれ?随分簡単に許可を出してくれたぞ……?
明日から使うつもりだったのに、部屋へ戻ったらブランドンが剣を持って待っていた。
用意が……良すぎる……。
結局、僕はアリッサからもらった剣帯をさっそく使うこととなった。このあと、すぐにアリッサと会うというのに……。
その上、兄上にもからかわれた。
「さっき、父上の侍従から、アルフレッドが父上に剣を持ち歩く許可をもらいにきたと聞いたよ。アリッサ嬢から剣帯をもらったんだって?」
「……父上の侍従が?」
わざわざ兄上に言うことか?
「アリッサ嬢から毎年、誕生日プレゼントをもらっているんだろう?なんだよ、本当はアリッサ嬢からも想われているじゃないか」
兄上に悪気はないのだろう。ニコニコと嬉しそうに突かれる。
僕は溜め息をつきながら首を振った。
「いいえ、絶対に友達枠です。変に期待したらあとでがっかりすることが目に見えているので、そういうことは言わないでください」
「そ、そうか。アルフレッドって……すごい自制心だな」
いいよ、別に、変な趣味だと本音を言ってくれて。ときどき、自分でもそう思っている。
「まあ、その……早く彼女から異性として認識してもらえるよう、頑張れ。私も応援する」
「ありがとうございます」
アリッサが僕を異性だと認識してくれる道のりはまだまだ遠そうだけどね……。
勝手なイメージですけど、“佩剣”は中国とか日本っぽい感じ。
洋風な舞台の場合は、“帯剣”を使うほうがしっくりするんだけど……剣帯(剣をつるす帯)と混じってややこしくなりそうなので、今回は佩剣で。




