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アリッサとウォーレンの内密話

 アリッサが王城へ来た。

 今まで護衛はリックだったが、リックはまだ護衛としては未熟なので、しばらくは熟練の人間が付くと聞いている。なんだか恐ろしく印象に残りにくい女性がアリッサの後ろに控えているが……。

 護衛?

 中肉中背であまり強そうには見えない。護衛なら、せめて、もう少し存在感がある方がいいような?


 アリッサと顔を合わせたウォーレンは、やはりまだ固い。緊張感の隠せないウォーレンに向かって、アリッサは2人で話したいと言い出した。

「……僕には聞かれたくない話?」

「えっと……ウォーレンさんと話したあと、ウォーレンさんがアルに言うというなら、別にそれは構わないと思っているんだけど……」

「ふうん?」

 なんだ、それ。

 ウォーレンの判断待ち?

 アリッサのウォーレンへの信頼度が高いことが、なんだか気に食わない。一体、何をウォーレンに相談するんだ?

 ―――防音の術に加えて、薄い遮像の魔法までウォーレンは使った。ウィリアムが読唇術を心得ているので、その対策だろう。

「……気になりますか?」

 ウィリアムが小さく聞いてきた。

「気にならない訳がない。でも、アリッサが僕には聞かせたくないというなら、無理には聞かない」

「殿下、意地っ張り~」

「これは意地じゃない」

 アリッサの意思を尊重しているんだ。

 ウィリアムの視線を無視して、真剣な表情で話している2人を見守る。

 ウォーレンの額の皺が深いので、やはりあまり良い話ではないんだろう。

 途中、ウォーレンがゆらりと揺れて遠くを見つめながら話し出した。何か記憶から情報を引っ張り出しているようだ。それを聞いて、アリッサが驚いているように見える。

 ああ、もどかしい。

 ウィリアムに任せて、僕は本でも読んでいようかな。

 そんなことを考えていたら、急にアリッサが泣き出した。

 呆然としたように前を向いたまま、涙を流している。ウォーレンが慌てたようにハンカチを渡すが、アリッサの涙は止まらない。更には目が虚ろになり始めた。

 ウォーレンが焦った様子で立ち上がった瞬間、アリッサは崩れ落ちた。


「アリッサ!」

 アリッサが椅子から落ちる前に駆け寄って抱き留める。

 アリッサの金の瞳が僕ではない何処かを見ていた。細い声が震えながら紡がれる。

「おとぉ……さん……、お……かぁ……さん……どこ?私……私、今……どこにいるの……?」

「アリッサ。アリッサが今いるのは、王城だよ」

「アリッサ……アリッサ?だれ?」

 揺れる彼女の視線に、背筋が寒くなった。

 まさか。

 もしかして……。

 アリッサ、自分を見失いかけている?

 アリッサは恐らく天恵者だと火龍公爵から聞いて以来、僕は天恵者について調べてきた。

 天恵者は、この世ならぬ知識を得る代わりに、己を見失う者も多いらしい。だからこそ、火龍公爵はアリッサが天恵者かも知れないと思いつつ、無理に問い詰めることはせずに自由にさせていた。アリッサの持つ“知識”を深堀りすることもしなかった。アリッサが“天恵”と向き合って、自身の存在を見失ってしまわないように。

 ウォーレンと何を話していたのかは分からない。

 けれど、何かが……彼女の心のバランスを崩したのだ。

 僕はアリッサの手を握り締めた。

 ああ……どうしたらいい?どうすれば、アリッサの心を守れる?

「アリッサ。……僕を見て。僕はアル、アルフレッド。君の友達だよ。君はアリッサ・カールトン、火龍公爵家の人間だ。大丈夫、何も問題はない。怖くないよ。……ちゃんとそばに僕がいるから。ね?大丈夫、大丈夫……」

「ア……ル…………」

 金の瞳が僕を捉えた。

 そして一瞬、ホッとしたように目元が緩んだ気がした。

 それも束の間。

 アリッサは意識を失い、カクンと全身から力が抜けた―――。

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