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平穏な春華祭を終えて

 今年の春華祭は驚くほど平穏に終わった。

 五大公全員が文句を言わずに静かに粛々と神事を行うなんて……ある意味、不気味ではないだろうか。何か悪いことでも起きる前触れじゃないかとつい思ってしまう。

 ま、本来はこれが当たり前なのだろうけれど。

 もっとも、ザカリーはいつもと変わりなくブツブツ言いながら参加して、途中退場した。

 ザカリーは魔力量はあるのに、何故かいまだに上手く使いこなせない。正直なところ、いてもいなくても、神事に何も影響がないので……「部屋へ帰る」と言って出てゆく彼を、父上も溜め息をついて見送るだけだった。最初だけでも参加するだけマシと考えているに違いない。


 春華祭が終わり、火龍公爵がアリッサと会う予定を組んでくれた。

 アリッサもウォーレンと会いたいらしい。

 ウォーレンは、あの魔の者の少年と会ってしばらくの間は不安定だった。今はだいぶ落ち着いたから、大丈夫かな……?

 ―――ウォーレンは、12~13才まで両親と弟と暮らしていた。

 暮らしていたという言い方は間違っているかも知れない。彼の両親はかなり力のある魔術師で、より強い力を求め……日常的にウォーレンやウォーレンの弟に人体実験を行っていたらしいのだ。

 らしい、というのは人伝に聞いただけで、本人に確認した訳ではないからである。

 そう、ウォーレンの魔力が異常に高いのも……まだ母親の胎内にいるときから行われた魔術のせいとのことだった。

 一体どんな術なのか、すべてはウォーレンを保護したときに灰燼に帰して失われてしまい、詳細は分からないけれど……すごい術式であったことは間違いない。ウォーレンの両親は、その優れた才能をもっと違う方面に向けることが出来れば良かったのに。

 ちなみにウォーレンは本来、火と風の魔法の使い手だ。

 だけど、それ以上に闇の魔法も使える。それは体に刻まれた様々な印に依るもので、そのせいもあってウォーレンは闇魔法を忌み嫌っている。自身が人ではない者に変えられたという意識が抜けないらしい。

 だからこそ、あの魔の者の少年が受け入れられないのだろう。

 まあ、特殊な立場のウォーレンじゃなくても、普通は暗殺者でもあったあの少年が魔の者になって、受け入れられるなんて……並の者には出来ることじゃない。


「そうか、アリッサ嬢と予定が合いそうか。良かった。早く詳細を決定しないと、地龍翁が怖くて怖くて……」

 いつものグレアムとの訓練後、兄上がホッとしたように目を潤ませた。よほど、地龍公爵はうるさいらしい。

 ちなみにこの頃、訓練後は兄上とリバーシの勝負を数回やるようになっている。兄上はリバーシをやったことがなかったので(カールトン商会絡みだからだ)、大会が始まるまでにリバーシ慣れしたいそうである。

 1、2回やれば充分だろうに……僕に勝てるまで止めるつもりは無さそうだ。

「……っく!今日も負けた!」

「ウィリアムを横に付けて助言をもらいますか?強いですよ、ウィリアム」

 ウィリアムは、この時間は廊下で待機している。

 この部屋で危ないことは起きないだろうからと、兄上の護衛も廊下待機し、兄弟2人の時間を作ってくれているのだ。

「イヤだ。自分の力で勝つ。……アルフレッドは、どうやって強くなった?」

「え?僕なんか、まだまだですよ。最初はアリッサにボロ負けでしたし。ウィリアムにも勝てないし、火龍公爵はもっともっと強いですしね」

「そうか。アリッサ嬢にボロ負けか……強そうだもんな、彼女」

 まだ盤を睨みながら兄上がぼやくので、僕は思わず笑ってしまった。

「兄上。アリッサを無敵に考えすぎです。あれは僕がまだ慣れてないときの話をですから。今なら僕の方が勝つんじゃないかな」

 というか、勝つ。

 絶対、アリッサよりは強くなっていると思う。

 勝負してくれないから分からないけれど。

「……負けず嫌いだな、アルフレッド」

「事実です。だってアリッサ、リバーシをしようと誘っても逃げますから」

「つまり、アリッサ嬢は初心者相手に遠慮なく勝負してきたってことか」

「それがアリッサですから」

「そうか……うん……」

 なんですか、兄上。

 どうして残念な者を見るような眼差しで僕を見るんですか。

負けず嫌いなところはよく似た兄弟?

そして……弟の好みにケチをつける気はないけれど、ちょっと心配な兄(笑。

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