王城での犯人炙り出しお茶会
お茶会の日になった。
王城で毒殺されかけたアナベル嬢。あの日から、まだ1年も経っていない。彼女は登城することに不安を感じているかも知れない、大丈夫だろうかと兄上と話していたのだが……。
死にかけて、蒼白になっていたあのときの様子がウソのように、アナベル嬢は元気一杯で、落ち着いた余裕のある態度で王城に現れた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
にっこりと笑顔が眩しい。
思わず兄上と顔を合わせる。僕らがもし同じ目にあったとして……彼女ほど堂々と振る舞うことは出来るだろうか?
ううーん、難しい気がする……。
さて、お茶会は兄上やライアン殿の計らいで、僕とアリッサ二人で過ごせるようにしてくれた。
「えっ、アリッサ嬢に留学の件を伝えてない?!何をやっているんだ、手紙でいいじゃないか!とにかく、直接言いたいのならお茶会のときにさっさと言え!」
と、兄上からも怒られたくらいだ。
分かっているんだけど……いつも間が悪くて伝えそびれるんだから仕方がない。
ちにみに今日のアリッサは、到着時から張り切っているのが丸分かりだった。火龍公爵が心配するのもよく理解できる。暴走しそうな勢いを感じる……。
そんなアリッサの腕に、この間贈ったブレスレットが付けられていないのに気付き、僕はがっかりした。
あーあ、少しでもアリッサを守りたくて贈ったんだけどなぁ。
そんな僕の視線に気付いたらしい。アリッサが慌てたように腕を後ろに回した。
「あの、ブレスレット……いつもは付けているんだけど、今日の服装には合わないかなーと思って外しちゃって……でもね、ネックレスはずっと付けてるから!」
そのネックレスは服の下で見えない。
ふと、ヘザーに言われたことを思い出した。
「殿下。青と金の組み合わせなんて……少し主張が過ぎませんか。独占欲の強い男性は嫌がられますよ」
―――アリッサはそういうことに疎そうだったから、大丈夫だと思っていたんだけど。
もしかして僕の意図に気付いたから外したんだろうか。止めておけば良かったかな……。
ただ、今日は様子を窺う侍女や侍従が多い。できたら、彼らに見せておきたかった……。
さて、留学の件をアリッサに話さなければいけない。
周りの目が気になって仕方ないので、人払いをする。
年配の侍女が―――あれはホッジ侯爵家ゆかりの者だ―――難色を示したけれど、強引に下がらせる。今日こそは言おうと思っているんだから、万全の態勢で話したい。
だけど、僕が口を開く前にアリッサが話し始めた。
「公式にアルが商会へ来るのは危なくない?」
「……夏までに、解決したいんだ。ただ、火龍家ではなく僕が狙いでなければ無意味だけど」
「んー、カールトン商会に来る件は分かったけど、どうせならディ……水龍家の商会にも行って欲しいな」
思わぬ提案に、僕は目を瞬かせた。
「何故?」
「王族は普通、店で買い物しないんでしょう?火龍家だけ贔屓にしてるように見えるのは良くないかなぁと思うの。それでなくても新商品をあれこれ出してて、うちは目立ってるみたいだし」
そうか。言われてみれば、その通りだなぁ。
でも、カールトン商会は買いたいものがいろいろとあるけれど、他の商会は微妙だ。特にヘイスティングス商会。
つい、それが言葉になって漏れる。
「ただ……ヘイスティングス商会は、女性の服飾が多いから何を買えばいいか悩むなぁ……」
「そんなの、誰かへあげるものを買ったらいいでしょ」
なんでもないように言われて、僕は素直にアリッサに聞いた。
「アリッサ、何が欲しい?」
いつも僕が勝手にアリッサへ贈り物をするけれど、アリッサに欲しいものがあるなら、それを買って贈りたい。
しかし、アリッサは目を真ん丸にして手を振った。
「ダメ!私は止めて。手袋ももらうのに、ディの店でアルが私の物を買ったらすごいウワサになっちゃう!」
そ、そんなに力いっぱい断らなくても……。さすがにぐさっとくる。
さらにアリッサは横を向いて呟くように言った。
「アルの婚約者だって……思われるじゃん……」
途端に、僕の心はひんやりした。
そうか……。僕はアリッサの良き友人の一人ではあるんだろうけど、婚約者候補では?と周りに思われるのは困るってことか。
思わず溜め息が漏れた。
僕の想いは、まだまだアリッサには届かない。
沈む気持ちを隠して、なんでもない口調で話す。
「そうだね。誤解が広がっちゃうか。どうしようかなぁ……」
「えーと、王妃さまにプレゼントは?」
「ああ!それはいいね。うん、そうするよ」
……もういいや。留学の件、あとで手紙で知らせればいいか。きっとアリッサは僕が1年いなくても、気にしないに違いない。
熱はなんとか2日で下がりました!
でも予定ほど書き進められなかったため、次回火曜日の更新はお休みし、土曜日から再開します。ごめんなさい。
 




