カールトン商会でこっそりアリッサと会う
カールトン商会の裏口から二階に案内される。
ああ、そうだ。
「マシュー。スイーツをいくつか選んでおいて欲しい。マーカス兄上に差し上げる約束をしているんだ」
シンシア様の分は、次に公式で商会へ来るときでいいだろう。先に兄上にあげたい。
マシューはニコッと頷いて、下へ向かった。
マシューと共に現れたアリッサは、特殊な変装をしている僕とウィリアムをすぐに見破った。ウィリアムが感心する。
うん、本当に……何故、分かったんだろう?
―――そしてアリッサと2人っきりになり、さて、何から話し始めたらいいかと悩んでいたら、彼女の手袋に目がいった。
「手の印は、まだ取れないんだね」
「う、うん。その、ラクが外し方が分からないみたいで。ムリに解除するとラクの精神に良くないって聞いたから……ちょっと様子を見てる感じ……」
「そうなんだ」
あ、駄目だ。
またムカムカしてきたぞ?
だって…何故、あんなヤツの精神を心配する必要があるんだ。僕らを殺そうとしたうえ、無理矢理に印をつけてアリッサを縛っている、あいつを。
そんな配慮なんか必要ない、今すぐ消そうと言いたくなるのを我慢して……まずは手紙の返事をしなかった件を謝る。
なのに、アリッサは小さく身を縮めた。
「ううん。あの……まずはラクの件、本当にごめんなさい」
そして、他にもいろいろと謝り始めた。いつも明るく溌剌としたアリッサが悄然とするので、僕も思わず焦る。
違う。違うよ、アリッサ。
アリッサは巻き込まれただけじゃないか。謝る必要なんてない……。
僕がそう言えば、アリッサはまた泣きそうな顔になって首を振った。
―――なんだか僕も悲しくなってきた。
どうして、大好きな女の子をこんな風に悲しませなきゃいけないんだ。それもこれも、あいつのせいだ。
だから余計に、あの少年を「許す」とは口に出来ない。どうして許せるというんだろう。
お互いに言葉に詰まり、しばらく無言の時が流れ……やがてアリッサは唇をぎゅっと噛み締めた。そして、僕を真っ直ぐに見る。
金の瞳が力強い光を放った。
「アルや、マーカス殿下の無事が一番大事だよ。私もアナベル姉さまも四龍家の一員、私たちが狙われたのか、王家に仇なす者がいるのか。どっちか分からないけど、王家の盾として───私はアルが無事で良かったって思ってる」
一息に言って、ニコッと笑う。
「それに、結局、私もアナベル姉さまも生きてるしね。アルが前に言ったじゃん。犯人が悪いって。ねえ、一緒に犯人を捕まえよう?もう、謝るの、お互いに止めにして」
「一緒に?」
「うん。その、手の印をどうにかしなきゃならないんだけど、犯人が動くかも知れないから王家のお茶会にも招いて欲しいって思ってる。毒は、いろいろ対策してるから!」
さっきまで泣きそうになっていたのが嘘みたいに、アリッサが力説する。
……うん。
そうか。そうだよな。今さらごちゃごちゃ考えていても、仕方ないか。
アリッサが僕の知らないところで囮になろうと動き回る方が心配だ。アリッサは、こうと決めたら実行力が半端ない。こうなったら、一緒に犯人を炙り出す方がいいに違いない。
ああ、その前に……まず、アリッサの魔印を隠しておく必要があるだろう。
王都で動き回るつもりなら、きちんと対策しておかなければ。
ということで、人前でも外さなくていいような理由を付けて手袋を贈ると約束する。一刻も早く、魔印を消したいのが本音だけど。
それに加えて、別れ際、青いブレスレットをアリッサに手渡した。前にネックレスを贈ってはいるけれど、アリッサにはそれだけじゃ足りないからだ。
とはいえ、いくつ贈っても小さなお守り程度じゃ守り切れなさそうだなぁ。
まあ、少しでもアリッサが危険から遠ざかりますように―――。
アリッサと別れ、馬車に乗ってから留学の件を言い忘れたことに気付いた。
あああ~!
ブランドンもマシューも、みんな、そのことを心配してアリッサと会わせてくれたのに!魔印のことに気を取られ過ぎた……!
 




