王城に囚われた者
王城図書室へ本を返しに行ったら、ジグに会った。
ウォーレンと同じく、莫大な魔力を保有するがために隷属の首輪をつけられ、王城に囚われている人物だ。鮮やかな黄緑の髪をしているので、遠くからでもすぐ彼だと分かる。
それにしても、こんなところで会うなんて珍しい。
「よう、第二王子殿下」
僕を見るなり、ジグはゆらゆらと近付いてきた。
あーあ。忙しいから、あんまり相手にしたくないんだけどな。
「図書室で君に会うなんて意外だね」
「ヒマで仕方ないのさー。なあ、殿下。ウォーレンだけじゃなく、オレとも遊んでくれよぉ」
「ウォーレンとは、遊んでいる訳じゃない。魔法の研究をしている」
「つまんねー。最近、ラミアも忙しいっつって、見かけねーし。ヒマなんだよ、ヒマ!読みたくねー本を読むしかないくらいに!」
ウォーレンは塔に籠もって本を読んでいられたら幸せだけど、ジグやラミアは……たぶん、そうではないんだろう。
王城から出られず、魔力が必要な神事などで呼び出されるということ以外、僕は彼らがどんな日常を過ごしているか知らない。
ふと、アリッサもこんな風に飼い殺しにされる未来があるんだと気付いて、僕は少しジグに憐憫の情を覚えた。
「……面白い本を持っている。貸そうか?」
「面白い本?」
「絵本だけど、面白いよ」
ジグは確か、20歳か21歳くらい。もう子供ではないけれど、閉ざされた狭い世界しか知らないので、僕よりも子供っぽい。
きっとアリッサの『長靴をはいた猫』は、楽しめるんじゃないかな。
絵本の他、数冊の娯楽本をジグに渡す。
そして、ふと思い付いて帝国の魔風琴も渡した。
「なんだ、これ?」
「音楽が鳴るんだ。本を読みながら、聴いてみるのも悪くないと思う」
蓋を開け、音が鳴り出した途端……ジグは硬直した。
あれ?
そのまま固まって動かないので、魔風琴を止めてジグを覗き込む。
「ジグ?」
「止めるなよ!すげーキレイな……音だ……」
なんだ。感動してたのか。
ジグは今まで見たことのない熱い目で魔風琴を見つめる。
「なんで、こんな箱が音楽を鳴らすんだ?」
「中に金属の櫛があって、弾いて音を鳴らしているようだよ」
「いいな。これ……いいな」
「……じゃあ、これはジグにあげる」
「いいのか?!これを、オレに?!」
ジグは僕よりずっと年上なのに、赤ん坊のときから王城に閉じ込められ、最低限の知識しか与えられていない。娯楽も、ほとんど知らない。妙な知恵をつけて、反逆の意を持たれては困るからだ。
生まれや育ちの特殊なウォーレンとは、まったく扱いが違う。
僕は複雑な気分でジグを見上げた。
「今度、僕は帝国へ行くんだ」
「ああ、なんか遠い国へ行くって聞いた」
「その魔風琴を作った国なんだよ。帰ってくるとき……ジグへのお土産に、魔風琴をいくつか買ってくる」
「本当か?!殿下……いいヤツだな。じゃあ、殿下の分、神事をしっかりやっといてやるよ!」
「ありがとう」
ウォーレンも気の毒な境遇だけど、ジグやラミアも……悲しい立ち場だよな……。
魔風琴:オルゴールのことです




