上手くいかないことだらけ
今回、ちょっと短め……
「領であれば、娘を危険から守れると思っていましたが……慢心でしたな。まさか屋敷内に魔の者を入れてしまうとは」
火龍公爵とともに隠者の塔へ向かう途中、ぽつりと公爵が洩らした。
それを言うなら、あいつは王家の保養地にだって入り込んでいる。もしかすると、こちらが気付いていないだけで、防御壁には抜け穴的なものがあるのかも知れない。
僕の指摘に、公爵は「なるほど」と頷いた。
「少年がこちらの手に落ちたのは、ある意味、僥倖だったかも知れませんね。少年から情報を集めましょう」
言いながらも、公爵の顔は晴れない。
「娘たちが今、無事でいるのは運でしかない。特にアリッサは……いつ、私の知らないところで消えてしまうか、心配でならなくなりますよ……」
「……」
公爵の言う通りな気がする。
アリッサはたとえどれだけ大事に囲い込んでいても、彼女が抜け出そうと思い立ったら、いつだって好きに抜け出してしまいそうだ。
結局、再び少年の顔を見るとまた頭に血が上ってしまって、僕は何もアリッサに言えないまま別れてしまった。
そうか。
モラ湖の件もアナベル嬢の件も……僕の中ではすべてあいつの仕業だと思い描いていたんだ。
あいつは首謀者でなく、使い捨ての駒に過ぎないと分かっているのに……犯人の姿形が分からないから、あいつにすべて集約させていたんだな……。
いろいろ自己嫌悪で落ち込んでいるうちに冬至祭を迎えた。
はー……こんな気持ちのときに大公たちに会うなんて余計に憂鬱だ。最悪なことに、アリッサに留学の件を伝えていないままになってる。今度……いつ、会えるんだろう。
とりあえず火龍公爵によると、少年―――ラクという名は、アリッサが付けてあげたらしい。それも腹が立つ―――は、属していた組織から抜け出してから魔の者になったらしく、過去の記憶はほとんど無いとのことだった。
まったくもって使えない。
ただ、良かったといえるのかどうか……アリッサを主とする印を付けるくらい、アリッサに従属しているらしい。従属というか……塔に現れたときの様子からすると、執着じゃないかと心配になるけれど。
ひとまずアリッサを害することは無いということだった。
まだ不安定なので、少しずつ慣らしてわずかでも覚えていることを話させる予定だそうである。
さて、憂鬱な冬至祭は……突然、ザカリーが「こんなバカバカしい神事なんて、やってられない!」と言って途中で逃げ出し、大騒ぎになった。
国を支える大事な神事をバカバカしいだなんて!
ザカリー……どんどんワガママになっていないか?丈夫だろうか?
ま、おかげで大公たちはその話で持ち切りだったから、僕やマーカス兄上は気楽だったけどね。
本日より、更新時間を朝7時から昼の12時に変更します。よろしくお願いします。
そして……総合1万pt超えました!御礼SSを活動報告に上げます♪
ただし誰得?なテッドの話……。
 




