収穫祭は胃が大変
本日の更新、ちょっと遅くなりました…!
秋の収穫祭が始まった。
今年は庭園の入口に巨大で奇っ怪なトゥーレンが飾られている。テッドとラクの力作なんだけど……なんだか怪獣のようだ。
2人が言うには、竜を作ったらしい。
うーん、見えないことも……ない、かな?
「お前ら、美的感覚悪いな」
リックがそれを見て笑っていたけれど、その横にちんまりと置かれているリック作のトゥーレンは、もっとよく分からない。
ただの野菜クズの塊??と首を捻っていたら、テッドがこそっと「犬だってさ。どこが頭で、体がどれか、全然分かんねぇよな?」と教えてくれた。
そっかぁ。メアリーも似たようなのを作っていたので、姉弟の美的感覚は似ているんだねー。
収穫祭の神事はオリバー兄さまと回る。領都近辺ばかりだ。
遠いところはお父さま、お祖父さま、セオドア兄さま、ライアン兄さまが回るらしい。
私は収穫祭の神事は、初めての参加だ。どのようなことをするかといえば、夏と同じように基本的には神さまへ御礼と感謝を捧げて回る感じ。
「アナベルやグレイシーは神事で領地を回ったことがないんだから、まだ小さいアリッサにさせる必要はないと思うんだけどね……」
オリバー兄さまが心配そうに私の頭を撫でながら言う。
「ううん、兄さまたちのお手伝いができてうれしい。領地を見て回るのも、楽しいし」
「まあ、アリッサは屋敷でじっとしているより、こっちの方がいいんだろうけど」
そう、あちこち行ける方がいいんです。
ちなみに、今回はリックが護衛に付いている。兄さまの護衛の人にいろいろ教えてもらっているようだ。
だけど私が後ろを向いてちょこちょこ話しかけても、テッドと違って返ってくるのは短い返事ばかり。そしてすごく渋い顔をされる。
「愛想悪いよ、リック」
「お嬢さま。人目のあるところで、あまり気軽に護衛へ話しかけるものではありません」
ちぇっ。真面目に諭されちゃった。
でも、その後でこっそり教えてくれた。
「今、実地試験中なんだよ!ボロが出るから、しゃべりかけないでくれ。俺はお嬢と学院へ行く分、テッドより言葉遣いとか仕草の査定が厳しいんだからな」
あ、それは失礼しました。
収穫祭最後の三日目。
領都の隣にある大きい町の神殿で神官たちと祈りを捧げ、夕食を一緒にいただく。
近隣の農民たちが「今日は幼い姫さまも来られていると聞いて。これ、美味しいんですよぉ、ここの名産です。ぜひ食べていってくださいな」とたくさん、果物を届けてくれた。
収穫祭だからか、夏のときに比べると、とにかく量がすごい。この期間、どこへ行ってもそんな感じで、道中でも馬車に近寄ってきては農作物やら何やらを渡してくれる人が多い。手作りのお菓子やパンの場合もある。
というワケで、私は食べ過ぎで非常~にヤバい状態に陥っていた。
途中の差し入れは、安全上の理由で食べられないけれど、通常の食事をする神殿ではどこも食事は山盛り、食後のデザートもたっぷり。食べ終わっても、追加されるときだってある。どれも最低一口は食べないとガッカリされるから……笑顔で、必死で食べているのだ。
うう、大食いの胃袋が欲しい。苦しいよーう。
それにさ。
食べ過ぎたら馬車酔いするから、朝昼は少なめが理想なのよ。でも、そういうワケにもいかず……食べて、馬車の中ではオリバー兄さまに膝枕してもらって吐き気に耐えている。
「俺さ。食えないのは辛いって思っていたけど、食いすぎで辛いこともあると初めて知ったよ。お嬢も大変だな……」
「そうだね……贅沢な苦しみかも知れないけど、ホントきついよ、これ」
なんとかデザートを胃に押し込んで、そろそろ瞼が重くなってきた頃。
目が見えないくらいフサフサ眉のおじーちゃん神官さんから話しかけられた。
「アリッサ様は次期領主候補となられたのですかな?カールトン領での前の女性領主といえば、もう100年以上も昔でしたかのー」
「領主候補?」
「いいえ、アリッサは違いますよ。好奇心旺盛なので、今回、連れてきただけです」
オリバー兄さまが横から穏やかに口を挟む。おじーちゃん神官さんは兄さまを見て、私を見て、また兄さまを見た。
「しかし、このお年で神事をされている。聞いたところによると、冬には山間部で魔除けの魔法陣も描かれたとか」
「なんでも兄の真似をしてみたくなる年頃のようでしてね。私たちも、可愛いものだからついつい一緒にいろんなことをしてしまうのです」
周りの神官さんたちも、じっと聞き耳を立てている。
……私が領主?どこからそんな発想が?
お父さまを見てて思うけど、領主なんて大変そうじゃん。絶対イヤ。
「私は世界中を旅をしたいんです。領主のお仕事の手伝いはするけど、領主はイヤです」
プッと兄さまが吹き出した。
「馬車酔いしながら、世界を旅するのかい?船だと、もっと大変だよ?」
「うっ」
そうだった。酔い止めの薬、開発しなくちゃいけないかも。
カールトン領の領主は、代々、初代の色―――紅い髪、金瞳を受け継ぐ魔力量がもっとも多い者と決まっている。
今まで、考えたことなかったけれど。
そうか……魔力量が増えた私は、将来、領主になってもおかしくないのか……。
たぶんセオドア兄さまはそう考えたから、私を積極的に領地回りさせることにしたに違いない。
「私……領主にならないよね……?」
屋敷へ帰る途中の馬車で、そっとオリバー兄さまに聞いた。
兄さまはいつものように、優しく頭を撫でてくれた。
「分かっている。ただ、セオドアは自分に何かあった場合、従兄弟たちよりアリッサが継ぐべきだと考えているんだよ。父上やお祖父さまは認めていないけどね」
そうなんだ。知らなかった。
「それよりも、アリッサはアルフレッド殿下と結婚する未来は考えていないのかい?かなりマメに文通しているようだけど」
「えっ?!あ、あれは、友達だからです!ディ―――クローディアとも、エリオットとも文通してます」
思わぬ方向へ話が飛んだので、馬車酔いも吹っ飛んで、私は慌てて両手をパタパタさせた。
文通友達は、ダライアスさまだっているもん。この頃は奥さまのユージェニーさまだって手紙をくれるし。
「そう?……アリッサの中では、まだ結婚したい相手は私やセオドアやライアン?」
「そうです!兄さまたちが一番です!」
「そっか。……良かった」
にっこり笑って、兄さまは一瞬、遠い目をした。
 




