双子の誕生日パーティーへ
夏至祭から一月ほどあとは……ディとエリオットの誕生日パーティーだ。
10才のパーティーなので、盛大に行われる。お父さまと一緒に行くのは、私とアナベル姉さま、ライアン兄さまの3人。
お父さまからはさっと行って、さっと帰るぞ?と言われた。それでもダメと言われずお祝いに行かせてもらえるのは、うれしい。
けれど、パーティーの終わり頃に行ったのに、ディたちの前には挨拶の行列がまだすごかった。
さすが水龍家の双子。
なんとか親しくなりたい貴族が多いんだろうなぁ。
仕方ないので少し会場をのんびり回って、アナベル姉さまのお友達を紹介してもらおうかしらと思っていたら……こちらに気付いたディがすぐに呼んでくれた。
「アリッサ!ベル!来てくれないかと思っていましたわ。遅いですわよ!」
それまで無表情だったディとエリオットが笑顔になる。それだけでいきなり場が数倍、明るくなったようだ。
天使の笑みの直撃を受けたからだろう、2人の前の行列がフラッと揺れる。
うんうん、この2人が目の前で微笑んだら、そりゃ、クラッとくるよね~。今日も揃いの衣装で美しいし。
ディはそんな行列を抜けて私とアナベル姉さまの元へ飛んできた。そして、ニコニコと手を引っ張る。
「挨拶疲れをしていましたの。ちょっと別室へ行きましょう!」
「いいの?挨拶の人がまだ……」
「主な家とは挨拶しましたわ。あとはもう、お父さまに任せます」
主役なのに、いいのかなぁ。
ディだけでなくエリオットも抜け出し、そこへライアン兄さまも加わって……火龍家と水龍家の子供だけで別室へ。
エリオットがホッとしたように席に着く。
「国中の貴族が来たんじゃないかと思うくらい、ずっと挨拶ばかりで疲れた……」
「そりゃ、君ら、2人揃って婚約者が決まってないからねぇ。この機会に……と遠縁の娘や息子をかきあつめてきたんじゃないか」
ライアン兄さまがくすくす笑う。エリオットが恨めしそうな目で兄さまを見た。
「まるで特売品か珍品みたいだ」
「いやいや、高級美術品だろう?」
そうだよねー、特売品だったらもっと殺気立って大変だよ。
そのとき、私の横にいたディが急にぎゅっと両手を握ってきた。
「ねえ、アリッサ。ベルではなく貴方が狙われているって本当ですの?」
「……うん、たぶん」
「あのメイドですわよね?わたくしたちに悪役がどうのと言ったメイド!失礼極まりなくて、ビックリしましたけれど。……でも、どうしてアリッサが狙われますの?意味が分かりませんわ」
あら。ディもあの言葉は聞き取っていたんだ?
なんて答えたらいいかなぁと考えていたら、エリオットがディの肩を軽く叩いて抑えてくれた。
「ディ。誰が何のために狙われているか、ずっと分からなかったんだ。敵の考えていることをアリッサが分かるはずもないだろう」
「まあ……そうですけれど……」
ホント、なんのために私を殺したいんだろう?
現時点で、私はアルともマーカス殿下とも婚約してない。もし、ゲームの世界へ転生していたとしても……絶対、ゲーム通りじゃないと思うんだけどなぁ。それとも、ゲーム通りに進んでないから?
でも、私が死んだら何が変わるんだろう??
そもそも前世が同じ日本人なら……物騒な解決方法じゃなく話し合いによる平和的解決を望む!問答無用で狙われるのは納得いかなーーーい!
ディとエリオットに誕生日プレゼントを渡す。
アナベル姉さまとライアン兄さまは従者に運ばせたようだけど、私は小さいプレゼントだから直接持ってきたのだ。
「まあ!とても綺麗な万年筆ですわ」
「これは……花の模様?」
箱を開けて、2人は歓声をあげてくれた。
黒檀の本体に、ディは百合に似た花、エリオットは藤に似た花を螺鈿細工してもらったのだ。男子のエリオットなら、もっと勇ましい図柄の方がいいのかも知れない。でも、植物好きだもんね。こっちがいいなぁって。
ちなみに、こちらの世界にも螺鈿細工の技法はあって、それを知ってすぐに、こういう図柄を万年筆の本体に施して欲しい!と依頼した。「こんな細い筒に細かい模様を?!」とドン引きされたものの、依頼通りに仕上がって大満足だ。
「ありがとう!大事に使うわ」
「ああ、私もこのペン以外は使わない」
うふふ、喜んでくれてうれしいな~。
2人は来年から魔法学院だもの。ぜひ、活用して欲しい。
「ところで、アルフレッド殿下の留学の件、貴方は聞いてなかったと聞いたのだけど……」
「そう!そうなの!ディ、ヒドいと思わない?」
「冬至祭の頃に決まったんでしたっけ。火龍公爵は教えてくれなかったの?」
ん?そういえば、そうだ。
アルじゃなくお父さまが教えてくれても良かったんじゃない?
ライアン兄さまが肩をすくめた。
「アルフレッド殿下が自分で伝えたいと言ったらしいよ」
「……で、言い忘れて行ってしまった、と」
やっぱヒドいよね、アル。その上、今もまだ手紙は来ないし。
私が少しふくれっ面をしたら、エリオットがそっと手に触れてきた。
「アリッサ。殿下は忙しすぎて、機会を逸しただけだと思う。殿下はいつだって君のことをとても心配していた。決して蔑ろにすることはない」
「ん……そう……かも知れないけど……」
「君がそんな風に怒るのは……やはり殿下のことが好きだからか……?」
「は?……えっ?!ち、ちがうよ!アルとは友達なのに、すぐ教えてくれなかったから怒ってるの!」
「……」
エリオットやディが同じことをしたら、同じように怒るよ!?
2人も大事な友達なんだから。
……アル。今は何をしているのかなぁ。
 




