夏のカールトン領を回る
更新、遅れました…。来週まで少々立て込んでいるため、更新回数が減るかも知れません…。
夏至祭を迎えた。
今年、私はお祖父さまと領地を回り、各村でお祈りをする。本当は、セオドア兄さまが私を連れて行くつもりだったらしい。だけど私が狙われているので、お祖父さまが「セオドアには任せられん。儂が行く」と譲らなかったのだ。
でもお祖父さまと回るので、ラクの同行許可が出た。というより、ラクの護衛訓練を兼ねるようだ。
まあ、ラクの場合、護衛というより変な暴走をしないよう教え込むことが一番の課題なのだけど。
ちなみにラクだけでなくテッドも一緒に行く。2人がいると、かなり賑やかになりそう~!
……と思っていたのに。
出発前からどちらも妙に静かで硬い。おや?
らしくないなぁ。
どうしてなのか聞いてみたら……
「大旦那さまはホント、キビシくてコワイんだよ。まあ、オレみたいなヒヨッコはビシバシ鍛えなきゃいけないって思われるのは仕方ないけどさ。……ラクもな。一回、大旦那さまにボコボコにされた。それ以来、大旦那さまには逆らえないんだぜ。大旦那さまには勝てないって身を持って理解したんだろ」
なるほど~。
チラチラお祖父さまを見て、右手と右足が同時に出ているラクが可愛い。
3日かけて、領西部の村々を回る。
あちこち回らねばならないので、移動は馬だ。
私はお祖父さまの前に座らされた。後ろにお祖父さまがいると、安定感抜群だ。
なお、お尻が痛くなる私のためにクッションが置かれている。
「クッション、要らない……」
「何を言う。アリッサが痛い思いを我慢する必要はない!」
「でも、それじゃいつまで経っても馬に乗れないもん」
ショックなことに、ラクも馬に乗れるらしい。しかも、かなり巧みだと分かった。
……うう、そんなことを知ると、やっぱり私も馬に乗れるようになりたいよぅ。初めて乗ったときは、こんなのムリと思ったけど、乗れる方がカッコいい。
はあ。お尻の痛みって、どう慣らしていけばいいんだろ。
領西部は穀倉地帯だ。
領都から馬で半日。見渡せば一面、緑、緑、緑!どこまでも広がる農地に圧倒される。
……ていうか村、どこにあるの?
それらしいものが見えないんだけど。
あと、こんな広大な農地を耕すのって、大変じゃない?前世だったら機械があっけど、こっちはどうしているんだろう。
疑問を口にしたら、お祖父さまが「あれじゃな」と指差した。
お?
左の向こうの方に牛に似た角のある動物がいる。……ただ、この距離であの大きさだと、前世の倍以上のデカさでは。
「モーグという、牛と魔獣を掛け合わせた品種でのう。150年ほど前か……あれのおかげで一気に農地が広がったらしい」
ちなみに収穫のときは、猿に似た獣を使うんだとか。
作物を勝手に食べてしまいそうだけど……収穫時は褒美でスープやパンを与えるので(人間が食べるより薄味のもの)、褒美欲しさに頑張るらしい。
それ、面白そう!見てみたいなー。カワイイのかなぁ。
川のそばに、10軒ほどしかない小さな村があった。
村の中心部には広場があって、オベリスクみたいな柱が祀られている。4つの面にそれぞれ、春夏秋冬の神々の印が彫られていた。
お祖父さまと一緒に、集まった村人とともにその柱へ祈りを捧げる。
最後にほんの一瞬、フッと柱が光った。ただ、テッドもラクも見てないというので、私の見間違いかも知れない。
「何か困ったことはあるか?」
「いいえ、領主さまのおかげでつつがなく」
お祈りを終え、馬のところへ向かいながらお祖父さまが質問する。
シワシワだけど屈強な体格のおじいちゃんがニコニコと答えてくれた。
よく日に焼けた女の人がうれしそうに「今年はお嬢さまも来ていただいたんですね。これ、どうぞ道中でお食べください」とカゴ一杯の果物を差し出す。おお、美味しそう~。
そしてすぐに次の村へ。
今日中に何ヵ所も回るので、ゆっくりしていられないのだ。馬に乗ってから私はお祖父さまを見上げた。
「四節は、毎回、全部の村を回るんですか?」
「いや。全て回るのは難しいからな、節ごとに地域を分け、さらに2年置きで各村を回っておる。とはいえ、領都の神殿で四節の神事をきちんとやっていれば、別に村々を回る必要はないんじゃがのー。まあ、領主一族が村人と一緒に祈る方が農作物の収穫が安定するようじゃし、魔物の出現率も低いという話がある。そして領の端々まで目を配れるのも良い……という理由だな」
ふうん。さっき、一瞬柱が光ったのが気のせいじゃないとすれば、魔力のある領主一族が祈ると魔法的な加護が発動する……のかも?




