イアンの追跡結果
私が知らないだけで、電話のような魔法具があるのかな?急に領へ帰ってきたのに、転移の間で迎えてくれたお祖父さまは、私に何も聞かなかった……。
翌日。
お父さまが領に来て、お祖父さまと一緒に話を聞くことに。
───私の指示で不審なメイドを追いかけたイアンは、途中でメイドを見失ったそうだ。だけどイアンは魔法の特殊な極細の糸を使うことが出来る。それをメイドに付けていたので、かなり奥まで痕跡は辿れたらしい。
「痕跡……?」
「糸も途中で切れていました。シンシア様の離宮の中です」
「イアンの糸に気付かれる可能性は低いはずだが……しかし、切れていたとなると攪乱させる目的のためにシンシア様の離宮に残したとも考えられるな」
お父さまの説明を聞いて、お祖父さまは難しい顔で考え込む。
なるほど。
主犯はシンシア様だよ?とミスリードを誘ってるかも知れないってことだよね。
ふむふむと話を聞いていたら、お父さまが私の横に来た。一緒のソファーに腰を下ろし、私の手を握る。
「アリッサ。天恵者の話を地龍翁にしたんだな。天恵者のことは……ウォーレン殿と話して知ったのか?」
私は慌てて居住まいを正した。
「前に、商会に来た帝国の少年に聞かれて、知りました」
そこから、私は帝国へ来いと言われたことなどを簡単に話す。
「……それでいろいろ不安に思ったので、詳しく知っていそうなウォーレンさんに相談したんです。あの……お父さまは、私が天恵者だと知っていたんですか?」
「そうだな。急に変わったときにもしかして、と思った。ただ、話に聞く天恵者と違ってお前はあまり混乱している節はなかっただろう?それなら、無理に触れぬ方が良いかと思ってな」
ふうん……。天恵者って、みんな、混乱するのかな?まあ、転生モノの話が溢れてる前世がなかったら、普通はそうなるものなのかも?
「天恵とは、どのようなものなんだ?」
「……前世の記憶です。この世界とは違う世界で生きた別の人間の記憶です」
「別の世界……」
黙って聞いていたお祖父さまが目をぱちくりさせた。
一方でお父さまは眉間にシワを寄せる。
「別の人間の記憶、か……。前の世界が恋しいか?前の人生でも、両親はいただろう?会いたいか?」
「……前世を思い出したとき、あまり深く考えなかったせいか、それとも私が薄情なのか……今はあんまり前の親の顔が思い出せなくて。自分の名前も……忘れたし……」
答えながら、ふいに怖くなってお父さまを見つめた。
「お父さま。私、気味悪いですか?別の人間の記憶を持っている娘なんて」
「馬鹿を言うな」
言葉とともに、ぎゅっと抱き締められた。そして、優しく頭を撫でられる。
「その特別な記憶も含めて、私の娘のアリッサだ。前にも言っただろう?お前のことを大事に想っていると」
「儂もだぞ、アリッサ!お前は儂の自慢の可愛い孫だ!!」
「お父さま……お祖父さま……」
あー……また泣いちゃうよ、私……。
そんなこんなのやり取りのせいで、結局、王城でどういう話をしたのか、詳しいことはうやむやなままお父さまは王都へ帰ってしまった。
とりあえず、私はしばらく王城には来ないように、ということにはなってるらしい。
ううーん、犯人が捕まらなかったんだから、それじゃ解決しないままじゃない…………?
 




