思いもよらない言葉を聞く
風龍公爵に案内されて王妃さまの席へ。
今日は国王陛下も大会に出られるので、王城の行事では必須の挨拶回りは基本的には無しになっている(とはいえ王妃さまの元には、それなりに列が出来ているのだけど)。
風龍公爵は私たちが席に着いたのを確認すると、ニコリと笑って会場へ戻っていった。審判役に付いているので、本戦の準備をするのだろう。
入れ替わりで地龍公爵が来られる。
「年老いた爺では頼りないかも知れんが、護衛役を仰せつかった。まあ、置き石だとでも思って我慢してくれ」
お母さまが目を丸くさせる。
「まあ。地龍翁が付いてくださるのですか?」
「火龍のは気に食わんだろうがの」
「……ダライアスさまは、大会に出られないのですか?」
つい、横から口を挟む。お母さまから「アリッサ!」と注意の声が飛んだ。話の途中で割り込むのは、礼儀のなってないことだ。
しかし地龍公爵は気にした風もなく、ふんと鼻を鳴らして私を見る。
「ああいうのは好まん。……おぬしは得意そうだが」
「そうでもないです」
「アルフレッド殿下をコテンパンにしたと聞いたぞ」
「あれは……勝てるのは最初だけだと思ったので……」
な、何故、それを知ってるの?
「ふはは、悪いやつだな」
「~~ダライアスさまもコテンパンにします」
「ほほう?」
やれるものなら、やってみろという視線を向けられた。
お祖父さまには勝てるんだけど……地龍公爵はどうだろ?結構、食わせ者だもんね。難しいかなぁ。
少ししてディもやって来て、地龍公爵の姿に一瞬、硬直する。
しかし、すぐに綺麗なカーテシーをして王妃さまや公爵に挨拶をし、私の隣に腰を下ろした。
「ありがとう、アリッサ!エリオットには散々文句を言われたけれど、参加できてうれしいですわ」
「私も……ディに会えて、うれしい」
「ええ。冬の間、会えませんでしたものね」
顔を見合わせ、ふふふと笑いあう。
「それで……今日は勝者を賭けるのでしょう?アリッサはどなたに賭けますの?」
楽しげなディの問いに、王妃さまがずいっと身を乗り出してきた。お母さまも寄ってくる。
「やはり大蔵卿のベンジャミン様ではない?」
「あら、イライザ。夫に賭けないの?」
「それを言うなら、あなたこそ」
「内務卿のメイソンさまはどうなんですか?」
「近衛騎士団長のオーウェンさまの方が……」
アナベル姉さまもディもすぐに加わり、一気に賑やかになった。わあわあとそれぞれが意見を述べて収集がつかない。地龍公爵は目を丸くさせている。
「───で、おぬしは誰に?」
地龍公爵がそっと私に尋ねてきた。
私は躊躇いなく即答する。
「お父さまです」
「ほう?」
賭けは、一人だけに賭けてもいいし、複数人に賭けてもいい。
でも私はお父さま一人だ。
「今回、お父さまにはいっぱい心労をかけてしまいましたからね。せめて、全力で応援します。ていうか、本当にお父さま、強いし」
「ふはは、火龍のもこれは負けられんな」
地龍公爵はにやっと笑った。
リバーシ大会は大盛り上がりだ。お父さまは順調に勝ち上がっている。
そして、準々決勝のときだった。
メイドが新しいお茶を持ってきてくれた。
アナベル姉さまとディが「ああ、今はお代わりは要らないわ」「そこに置いておいてちょうだい」と指示する。
メイドは「かしこまりました」と頭を下げ、ポツリと呟いた。
「いかにも悪役令嬢ですね」
「え?」
姉さまとディがポカンとする。
私は軽く息を飲んでメイドを凝視した。
“悪役令嬢”?
メガネをかけた、恐ろしく平凡な容姿のメイド。まさか、転生者?
……バチッと彼女と視線が合う。
しかしすぐに頭が下がり、彼女はさっとテーブルを離れた。
「メグ!」
私は慌てて、後ろに控えていたイアン(メグ)を呼ぶ。
「お嬢様。どうされました?」
「すぐに、あのメイドを追って!」
小さな声で頼んだら、イアンは「承知しました」と詳しいことは聞かずに後を追ってくれた。
あのメイド……私と目が合った瞬間、笑わなかった?
背筋がぞくっとした。
もしかして……あの人が……。
今週来週は少し時間に余裕がないため、火土の2回更新で。
気になる箇所で進みが遅くてすみません。
 




