嬉しい来客
お父さまに文句を言ってやろう!と肩に力を入れていたのだけど、屋敷へ帰ると「すぐに領へ戻ってくるように」というオリバー兄さまの伝言があった。
何があったのかしら。
お母さまが「もう~、明日はアリッサと買い物でも行こうと思っていたのに!」と口を尖らせつつ、お土産に王都で流行の新しいお菓子を持たせて送り出してくれた。
「いい?ムリしちゃダメよ。面倒なことを頼まれたら、すぐにお母さまに連絡しなさい。ぜーんぶ、お母さまが断るから!」
ありがと~、お母さま。
領の転移陣を出ると、オリバー兄さま、お祖父さま、そして……驚いたことにバートがいた。港町リーバルの統領の。
「バート!」
「お久しぶりです、姫。ああ、これはこれは……たった1年で見違えるほど美しくなられた。思わず緊張してしまいますな」
きゃー、やだ、テレる~。
お世辞だと分かってても、バートに言われると舞い上がっちゃうよ。ナンパな台詞なのに、嫌みもないし自然な感じがオトナな余裕……!
私の手を取り、スッと甲に口付けするのも手慣れた仕草だ。
お祖父さまが憮然とした。
「バート。儂の大事な孫に不埒な真似をするな」
「オーガスト様。こんな愛らしい姫に親愛の情を示さないのは、男として問題がありますよ」
バートがくつくつと笑う。
お祖父さまは渋い顔のまま大股で私のところへ来て、抱き上げた。
「アリッサは今日は朝から忙しかっただろう。今日は一緒に夕食をとったら、早めに寝なさい」
「はい」
バートから隠すように抱え込まれて、私はお祖父さまの首にぎゅっと腕を回した。バートも好きだけど、ちゃんとお祖父さまも大好きだよ!
バートがわざわざ領都まで来てくれたのは、前に私が南国トゥンガの商人へ依頼していたカカロの実を届けるためだった。
カカロの実が樽2つ分。これが、最終的に公爵家としてもなかなか目を見張る価格になってしまったらしい。そんな高価な荷を半端な者に任せる訳にはいかず、統領自らが運んでくれたそうだ。
「……またえらく高いものを買ったな、オリバー」
「父上から了承は得ています」
「1樽で良かったのではないか?」
「いえ、もしこれがモノになりそうな場合、取り寄せだけでもこれだけ掛かるのですよ。先にまとめて買っておく方がお得でしょう」
ちなみにカカロは高価なので、2樽分集めるのに時間が掛かったそうだ。
……チョコが食べたかっただけなのに、なんかすごいお金も時間も掛かっちゃったし、これからまだ試作しなきゃならないんだけど……やばい、怖くなってきた。上手くいかなかったらどうしよう……。
ひそかにガクブルしてたら、オリバー兄さまが頭を撫でてくれた。
「アリッサは気にしなくていいよ。買うと決めたのは私だから」
「でも……」
「大丈夫、大丈夫」
ううう、うっすい記憶を頼りに、がんばってチョコを作り上げます!
バートも一緒の楽しい夕食が終わり……お祖父さまとバートは談話室で昔話に興じるといって席を立った。
私も少しだけでいいから参加したかったけれど、お祖母さまに寝室へ連行される。
くう……でも、食事中に何度か意識が飛びかけていたので、実際、もう限界。眠けMAX。子供体力が悔しい~。
結局、うとうとしつつ湯浴みをして、さっと髪を乾かされ、すぐベッドに寝かされた。
お祖母さまがお休みを言いに来てくれる。
「明日は、朝の鍛練は禁止よ。遅くまでゆっくり寝ていなさい。今日は大変だったでしょう?」
「でも……バート……」
「まあ、アリッサったら!彼は数日、滞在するわ。まだ話をする時間は充分にあります。……でもね、」
頭を優しく撫でるお祖母さまの手に、まぶたが自動的に閉じそうになる。
「アリッサの年頃ならバートのような男性は魅力的に映るかも知れないけれど……ああいう軽薄な男は駄目よ?」
「……お祖母さま、バート……きらい?」
「そうねぇ、微妙なところねぇ。少なくとも一生を共にしたい相手ではないわね。オーガストも……どうしてあんなに気を許しているのだか!」
ふふ……お祖母さま、バートに嫉妬してるみたい……。お祖父さまとバート、言葉は少なくても互いに理解し合ってる風だったもんね。
ああ、お祖父さまたちの……昔話…………聞きたかったなぁ…………。
今年もよろしくお願いします!
アリッサの長い一日、ようやく終了。…年を跨いじゃった。
 




