事前に根回しするなんて、ズルイ
「……地龍翁と会ってすぐ、あんな気軽に楽しそうに話す人間がいるなんて、信じられない」
日当たりの良い応接室に着くなり、マーカス殿下がポツリと呟いた。
「え?」
「あの人は本当に気難しいんだ」
「そうなんですか?でも、石の加工工房も見せてくれるって。優しいですよね」
気難しいなんて、ウソじゃない?
すると、アルがふーっと大きな息を吐いた。
「アリッサがわりと誰とでも仲良くなるのは知っていたけれど。それでも、まさか地龍公爵とも仲良くなるとは思わなかったよ。そのうえ、すごく盛り上がるし」
「それは……たまたま、玄剛石のことを調べたばかりだったせいじゃないかな」
たぶん、タイミングが良かったのよ。それ以外に理由はない、と思う。
アルは何故、私が玄剛石を調べていたか分かったのだろう。一瞬、剣帯に触れてから「うーん、そうだとしても……早すぎる……」と、まだブツブツ。
そうかなぁ。
地龍公爵は好きな話を振ったら、ばんばん喋る人だと思うなー。
あと、さっきお母さまに抱き締められて安心したから気付いたのだけど、私はもう前世の“私”ではない。この世界の“アリッサ”なのだ。両親からも兄姉からも愛され、伸び伸び育った末っ子気質。
前世ではそれなりに友達もいたけれど、さすがに年配者など、誰とでも気軽に話せる性格ではなかった。だけど“アリッサの私”は見知らぬ人に対してあまり不安を抱くことはなく、つい、ぽんぽん話しかけてしまう。怖いもの知らずな性格は、前世の“私”ではなく、“アリッサ”のものなのだ。
ん?
そういうあたり、やっぱり“悪役令嬢”なのかしら。
最近、すっかり忘れていたけれど、このままの状態で育っていくと将来は断罪されるのかな……?
さて、納得していないアルとマーカス殿下の回復を待ってても仕方がないので、さっさと本題の話を始めてしまおう。
地龍公爵と話し込んじゃったからね。急がないと時間が足りなくなるよ。
「えーと?リバーシ大会、参加者は成人貴族だけなんですね」
事前にもらっていた書類を指しながら尋ねる。すぐに頭を切り換えたらしいアルが頷いた。
「うん。今回の主目的は他にあるから。ひとまず大人のみの大会にする。それに、初の試みだろう?どれだけ参加する者が集まるか不明だ」
───主目的。
謎の暗殺者を炙り出す計画。
「食い付いてくるかな……?」
「食い付かせるよ。そうでないと、いつまで経っても自由に動けない」
まあね……確かにすごく不便なのよね……。
「エリオットも手伝ってくれる。という訳で審判は、僕とエリオット、ライアン殿、風龍公爵の4人で務めるから」
「え?」
エリオットとライアン兄さま?
「待って、それなら私とアナベル姉さまで……」
「女性を囮には出来ない。アリッサ嬢とアナベル嬢は、不参加だ」
横からマーカス殿下にきっぱりと言われた。
私は一瞬ポカンとしたあと、思わず食って掛かる。
「そんな!犯人が誰か、狙いが何かも分からないのに、肝心の関係者二人を外すんですか?!じゃあ、どうして計画に私を加わらせるんですか!」
「アリッサ!」
アルにぐいっと引かれた。
……不敬だって言うの?今さら?
もしそんなこと言うなら、協力なんてしないんだから。
大体、アルが身を張るというのに、私は安全なところで待ってろなんて。
「これは四龍の総意だよ、アリッサ。その代わり、計画を立てる段階に君に加わってもらった。そうすれば犯人は、大会時も君がいると考える可能性があるからね」
「…………」
~~~納得いかない!
お父さまもヒドイ。一番大事なことを私には黙っているなんて。
アナベル姉さまから昨夜、「私の役割もちゃんと振ってくれなきゃイヤよ。がんばるから!」って頼まれたのにぃ。
───とはいえ、四龍会議で決められたことに私が反対できるはずもない。
非常~に不服ながらも、従う以外、道はなかった。
マーカス殿下から慰められる。
「アリッサ嬢。私だって、弟やエリオットを囮にして自分だけ安全圏にいるのは辛いんだ」
殿下は、主催者ということで騎士に守られた壇上にずっといるらしい。
そりゃ、王子二人が揃って何かあったら大変だもんね。
でもさー……私は違うじゃん?エリオットが参加するのに、私はダメなんてさ……うう……。
改めて、リバーシ大会の詳細を詰める。
試合形式は、総当たりではなくトーナメント形式で。
そして以前に私が提案した通り、優勝者予想の賭けも行うそうだ。
昨秋、風龍公爵領は大嵐に襲われ、まだ復興がままならないため、掛け金をその復興費に回すらしい。
私は試合を見る人たちが楽しめる観覧方法や、試合が長くなり過ぎないようにする手段などのアイディアを幾つか出した。まだまだ詰めないといけない事柄がいっぱいあるけれど……ひとまず今日はここまで。
次の話し合いの日を決めてから、私は帰路に着いた―――。




