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もしかして悪役令嬢 ~たぶん悪役令嬢なので、それっぽいフラグを折っておきます~  作者: もののめ明
アリッサ7才

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この世で一番硬い石

 転移陣のそばで私を待っててくれたのはお母さまだ。

 お父さまが仕事なので、代わりに迎えに来てくれたらしい。私の顔を見て少しだけ眉を寄せ、何も言わずに抱き締めてくれる。

「少し忙しくしすぎじゃないかしら。疲れた顔をしているわ。明日は、私と一緒にゆっくり過ごしましょうね」

「……はい、お母さま」

 お母さまの優しい温もり。

 うん。大丈夫。

 さっきは混乱しちゃったけれど、私の居場所は、ちゃんとここにあるね。お母さまやお父さま、姉さま兄さま、アル。みんな、“私”を大事にしてくれている。

 孤独だと思うなんて……バカだなぁ。

 前世を思い出してから何年も経っているのに、今さらオタオタするなんて、もう、恥ずかしいよ……。


 屋敷に戻り昼食を食べ、しばらくのんびりしてから今度は馬車で王城へ。

 今日はマーカス殿下は魔法学院で授業がある。それが終わってから、この話し合いに出てくれるらしい。

 王城へ着いたら、玄関ホールに何人か、おじさまたちがいた。

 侍従や警備兵ではない。貴族のおじさまたちだ。

 不自然にウロウロしている。何をしているんだろう?

 挨拶した方がいいのかなーと考えていたら、すぐにマーカス殿下とアルが現れた。アルはマーカス殿下の一歩後ろにいる。

 私は二人に向かって久しぶりにカーテシーをした。

 うむ。

 お嬢さまらしい仕草、忘れてなかったよ。

「急な計画に君も巻き込んで、すまない」

「いえ。お役に立てるか分かりませんが、力を尽くします」

 マーカス殿下に答えてから、アルが剣をぶら下げていることに気付いた。

 え?!贈った剣帯、もう使ってるの??

 練習しか、剣を持たせてくれないって言ってなかった?

 私の視線を辿って、マーカス殿下がくすくす笑った。

「その剣帯、アルフレッドの誕生祝いにアリッサ嬢が贈ったのだろう?アルフレッドはよほど嬉しかったみたいだね。父上へ、城内でも剣を持ち歩く許可をくれと交渉していたよ」

 ……な、何をしてるの、アル。

 そして、マーカス殿下。

 何故、こんな衆目環視の中でバラすんですか。後でいいでしょう、後で!

 返事に詰まって困っているうちに、マーカス殿下から「さ、向こうへ行こう」と促されてしまった。

 あう、おじさまたちの興味津々な目が痛い……!


 移動中もあちこちから視線を感じる。

 キョロキョロするとお嬢さま的には失格なので、我慢して真っ直ぐ前を見つめる。

 廊下を二つほど曲がったとき、一人の老齢の男性と行き合った。

「……地龍公爵」

「殿下がたをすっかり虜にしているという、火龍の娘御に是非ともお目にかかりたくてな」

 小柄だががっしりした体格、浅黒い肌、洗いざらしたような灰色の髪。濃紺色の瞳が炯々とした光を放っている。

 地龍公爵?ダライアス・ラヴクラフトさま?

 ぎろっと睨まれて、思わず息を飲んだ。

 アルが庇うように前に出る。でも、それを止めて急いでカーテシーをし挨拶をした。現四龍の中で、一番年上の方だと聞くもの。礼を尽くさなくちゃ!

「お初にお目もじいたします、地龍公爵閣下。アリッサ・カールトンと申します。お会いできて光栄です」

「ほう。父親より礼儀正しいな」

 ん?お父さま、地龍公爵に無礼なの?い、意外~。

 ルパート閣下との関係とか、お父さまって家とは全然、顔が違うのね?

 とりあえず、ちょっと難しそうなおじーさまっぽいので、大人しく微笑むだけに止めてておく。

 すると、地龍公爵はふんっと鼻を鳴らした。

「……わしはダライアス・ラヴクラフトだ、火龍の娘よ。何やら下らぬ遊戯を王城で広めるつもりと聞いたが」

「地龍翁。その件は私の発案です。アリッサ嬢にそのような言い方は止めていただきたい」

 マーカス殿下がすかさず厳しい声で割って入った。

 下らぬ遊戯……リバーシのこと?まあ、剣術大会などに比べたら、確かにお遊戯大会なので否定は出来ない。

 マーカス殿下とアル、地龍公爵の間でピリピリした空気が流れる。

 あれ?

 どうしよう。これ、私が悪いの?

 何か言った方がいいのか、何も言わない方がいいのか。む、難しい……。

 困ってキョロキョロしていたら、地龍公爵の手甲に目が止まった。

 甲を覆う革の上に編んだ黒い鎖が付いている。その鎖の黒は、光を反射しない完全な漆黒だ。

「玄剛石……?」

「え?」

 思わず口走ったら、マーカス殿下が振り返る。

 し、しまった。

「今、なんと?」

「……これが何か、知っているのか」

 マーカス殿下と地龍公爵から同時に問い掛けられた。

「え……えっと……玄剛石の手甲かな?と……」

「よく分かったな」

「光を反射しない黒は、玄剛石だけと聞きました。そういう黒色は他にないとも。そして、玄剛石はこの世でもっとも硬い石で、加工がとても難しい石なんだとか。それを、そんな風に……鎖状に加工できるとしたら、すごいと思ったので……」

 アルには聖輝石を贈ったけれど、玄剛石も候補にあった。だけど、加工には特殊な技術が必要と聞いて、諦めたのだ。だって二つに割るだけでも大変だというんだもん(ちなみに石の丈夫さは玄剛石が一番だけど、印の効果が高いのは聖輝石)。

 私の質問に、地龍公爵はニンマリと笑った。

「コレの価値が分かるとは、大したものだ。そう、玄剛石製だ。近くで見るか?」

「はい!」

 見たい、見たい!

 喜んでそばで見せてもらった。

 鎖の大きさは1㎝ほど。鉄の鎖と違って、切れている箇所が見当たらない。ということは……?

「え?まさか、一つの石から削って作られているんですか?!信じられない!うわぁ、うわぁ、芸術作品……!感動~!!ああ、でも掛かった時間とか、すごそう……!」

「10年掛かった品だ」

「ひぇ、10年?!」

 ペタペタ触っていたので、慌てて両手を挙げる。

 こ、これ、もはやガラスケースに入れて展示するレベルのやつじゃない?

 私があたふたしていたら、地龍公爵はカラカラと笑った。

「この世でもっとも硬い石だぞ。加工は特殊な技術が必要だが、その分、生半可なことでは壊れることなどない。お前さんが触ったくらいで、どうもせんわい」

「で、でも……なんていうか、畏れ多いというか」

「武具は使ってこそ、価値が出る。飾るなんぞ、阿呆のすることではないか。我が家には、他にもいろいろあるぞ。今度、見に来るか?」

 他にも?

 ハッと私は地龍公爵の顔を見た。

「玄剛石の武具ですか?……み、見たいです」

「おなごのくせに武具に興味があるとは、面白い趣味だな」

「武具そのものより、どちらかといえば加工技術に興味があります。石がこんな風になるなんて、信じられなくて」

 ラクのペンダントやアルの護石を彫るだけで本当に大変だったのよ。石の立体加工って、どうやるものなの?

 地龍公爵は顎に手をやった。

「ふむ。……では、工房も見学するか?」

「いいんですか?!門外不出の技術だと聞きますけど」

「見たところで、真似など出来ん。我が領の素晴らしい技術をその目でしっかりと見てみるといい」

「きゃー、ありがとうございます!」

 思わず公爵に抱きついちゃったよ。

 最初は怖そうって思ったけど、いい人じゃん、地龍公爵!

今週からしばらく火木更新になります。よろしくお願いします。


※ 難物じーちゃんとあっという間に仲良くなったアリッサ。

マーカスとアルフレッドは横で呆然…。

(風龍公爵も絡む予定だったけど、長くなりそうなので今回は見送り…)

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