表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかして悪役令嬢 ~たぶん悪役令嬢なので、それっぽいフラグを折っておきます~  作者: もののめ明
アリッサ7才

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

257/369

ちょっとだけ、自分を見失いかけました

 気が付いたら長椅子に横になってて、アルが手を握っていた。

「ああ、目が覚めた?お茶でも飲む?」

 ……ぐるぐる、頭の中もお腹の中も、気持ち悪い。

 ずっと、目を背けていたことが突き付けられた。

 私はこの世界の“異物”だ。

 この世界で生まれたはずなのに、この世界ではない世界が恋しい。本来の居場所ではないと、心のどこかで思っている。

 そう、前世のあの世界が……私はどうしようもなく恋しい……。絶対に戻れなくて、写真とかで見ることも出来なくて、誰かと懐かしいねと話をすることも出来ない、あの世界が。

 私は、この世界で独りぼっち。異物だ。

「アリッサ!」

 アルから強く呼び掛けられた。

 頬をアルの手で挟まれ、アルの青い瞳がこちらを真っ直ぐに見据えている。

「こっちを見て、アリッサ。僕が誰か、分かる?」

「……アル」

「うん。君の名前は?」

「アリッサ……アリッサ・カールトン……前の…………ま、前の名前は……もう、お、思い出せない……」

「前の名前なんて無いよ。アリッサはずっとアリッサじゃないか。大丈夫、さあ、ゆっくり息を吐いて。……吸って。ほら、お茶を飲もう。美味しいお菓子も用意したから」

 アルに促されるまま息を吐いて吸って……お茶を飲んでいるうちに、少しずつ落ち着いてきた。前もこんなこと……無かったっけ?

 ……ああ、そういえば。

 天恵者が不安定になるって話、今さらだけど、その理由が分かったかも。

 アイデンティティーが突然、崩れる感じ。

 ホームシックなんて軽いものじゃない。心にぽっかりと物理的に穴が空いたみたい。忘失感が半端ない。二度と戻れないって自覚したら……こんなに辛いんだ。私、自分のことなのにどこか他人事のように見ていたよ。もしかしてそうやって……無意識に精神を守っていたのかしら。


 その後、お茶を飲みながらアルとどうでもいい話をした。何を話したのか、覚えていないくらい。

 だけど、そのおかげで胸の奥に開いた穴から“自分”が流れていきそうな感覚は薄れて消えた気がする。

 ───やがて王城を辞する時間になった。

「今日の午後は、中止しよう」

 転移陣へ向かう途中、アルがそう提案する。私は首を振った。

「ううん。もう落ち着いたから、大丈夫。何かすることがある方がいい」

「……分かった」

 アルは──―私とウォーレンさんがどういう話をしたか、聞いたのかなぁ?私には何も聞いてこないのだけど。

 ちなみに塔を出るときに見たウォーレンさんは、すっかりショゲていた。迷惑かけちゃって申し訳ない……。

 ───転移陣の間へ到着する直前。

 私は大事なことを思い出した。

 しまった。こういうタイミングで渡すつもりはなかったけれど……。

 後ろを歩くイアンに目配せして、彼に持たせていた袋をもらう。

 少し早いのだけれど、アルへの誕生日プレゼントだ。直接渡せる機会が少ないので、早めに持ってきた。

「あのね、アル。えっと、これを……」

「ん?なに?」

「誕生日プレゼント……」

 途端にアルが目元を綻ばせた。そして、ふわっととっても綺麗な笑顔になる。

 う、ま、眩しい。この笑顔、好きなんだけど……ドキドキするよぉ。

「ふふ、気にしなくていいのに」

「アルの方こそ。あんな可愛いクマのぬいぐるみをくれるんだもん。何をプレゼントしようか、すっごく悩んじゃった」

「見てもいい?」

「……どうぞ」

 そんな、目をキラキラさせて期待するほど良いものじゃないけど。

 袋の中身は……剣を下げるための剣帯だ。丈夫で実用的な革製のやつ。アル、すごく剣術を頑張ってるって聞くし。

 ちなみに女性が男性に剣帯を贈るとき、普通は式典などで使うための、厚地の布に刺繍を施したものが一般的らしい。もちろん、手ずから刺繍をする。

 だけど私は……アルの婚約者じゃないしね。刺繍も上手じゃないからね。無難に実用的な革にしたのだ。

 ただ、飾り玉は付けてみた。

 アルがブレスレットをくれたので、私も同じように護符の機能を持つ飾りを贈ろうと思って。ちゃんと私の手で彫っている。

 アルはすぐ飾り玉に気付き、目を細めた。

「これは……衝撃が軽くなる印?」

「そう。剣を打ち合ったときの衝撃緩和がメインだけど、身に付けていたら、身体に掛かる物理攻撃全体に効果はあるはずなの。でも、あくまでも軽減だからね?その代わり、防御の印なら一回の攻撃で壊れるけど、これはそう簡単には壊れないんだって」

「えっ、それはすごい」

 うふふ。これでもいろいろ、考えたのよ。

 アルは飾り玉を明かりに透かした。

「聖輝石?」

「うん。一番、力が強い石」

 石の色は紅じゃない。無色透明だ。

 前はマシューに言われて何も考えずに紅蓮石を選んだけど、今はもう……ねえ?自分の色を贈るって、恥ずかしくって出来ないもん。なので、無色透明で、前世でいうダイヤモンド的な一番いい石を選んでみたのだ。

「もったいなくて、使えないなぁ」

「ダメだよ、普通に使ってくれなきゃ!式典で使うような、刺繍入りのやつじゃないんだし」

「んー、でも剣帯自体、初めてもらったから。まだ僕は剣術の練習時しか剣を持たせてもらえないからね。毎回、騎士見習いから借りているんだよ」

 え?王族なのに、借りるの?

 首を捻っていたら、アルがにっこり笑って思いがけないおねだりをしてきた。

「いつか……刺繍入りのやつも欲しいな」

「えっ……」

 思わず返事に詰まってしまう。

 そーゆーのは、婚約者とか、恋人が贈るやつ……。

「し、刺繍は……その、へ、下手だから……」

「そっか。残念」

 アル……どのくらい本気なんだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ